「いずれの遺体も熊とみられる大型の動物に引っ掻かれ、噛まれた痕がありました。人体のなかでも比較的やわらかい腹部や胸部が食べられていて、衣類がないと身元を確認できないほど損傷が激しい遺体もありました。事件はすべて熊取平と田代平という半径2.5kmの非常に狭い範囲で起きています。同一個体によるものか、もしくは集団による可能性もあります」(秋田県鹿角警察署の担当者)
秋田県鹿角市十和田大湯の山林で「連続殺人」が止まらない。6月10日、自営業・鈴木ツワさん(74才)の遺体が発見された。周辺では5月下旬から熊の襲撃による死亡事件が相次いでおり、鈴木さんが4人目の犠牲者となる。
鈴木さんの遺体発見後、地元の猟友会が現場近くにいたツキノワグマ(体長1.3m、推定6、7才のメス)をライフル銃で射殺した。県などが解剖を行ったところ、胃の中からタケノコとともに人体の一部が見つかった。
「今回、人を襲っているのはオスのツキノワグマとみられます。今の時期は繁殖期で、雄熊はかなり興奮している。今回射殺された雌熊とは別に、“主犯のオス”がいるのではないかと専門家が指摘しています。まだ周辺に潜伏している可能性が高い。引き続き厳重な注意が必要だと呼びかけています」(秋田県庁自然保護課の担当者)
ついに「人食い熊」が出た──甦るのは「三毛別ヒグマ事件」の悪夢だ。大正4(1915)年12月9日、今から101年前に北海道苫前村三毛別の農家を冬眠前で腹を空かせた巨大なヒグマが次々と襲撃し、死者6人、重傷者3人が出た。犠牲者の1人は妊娠しており、お腹を引き裂かれて胎児もろとも無残に食い殺された。妊婦は熊に懇願するように「腹破らんでくれ!」「喉食って殺して!」と叫んだという。獣害史上、最大の惨劇とされる事件だ。
この事件で暴れ回った「ヒグマ」の生息地は北海道に限られるが、今回の事件の「ツキノワグマ」は本州・四国に広く生息する。一般に、獰猛なヒグマと違い、ツキノワグマはおとなしく臆病で、捕食のために人を襲うことはないとされてきたが、今回は違った。日本クマネットワーク代表の大井徹さんが解説する。
「最初はタケノコ狩りをしている人間と偶然に遭遇した熊が縄張りを守るために攻撃したのでしょう。しかし、その時に熊が“人間の味”を覚えてしまい、以降は人を食べる目的で襲撃を繰り返すようになった可能性があります。熊除けの鈴の音が逆に“獲物”の居場所を教えたのかもしれません」