エコー(超音波検査機)といえば、産婦人科医が胎児の状態を診断するために使用する医療機器として知られるが、それを肩こり治療に応用するクリニックがある。
固い筋肉は青色、柔らかい筋肉は赤色で表示されたモニターを見ながら、注意深く注射針が差し込まれ、患部に“潤滑油”の役割を果たすヒアルロン酸を注入する。注射器とエコーを巧みに操るのはライズシティクリニック(東京都豊島区)の福島一雅・院長だ。
「筋肉は幾層にもなっているため、触診だけでは肩こりの原因になっている炎症がどの深さにあるのかわかりにくい。エコー診断で、痛み止めやヒアルロン酸を的確に注射できるのです」(福島院長)
評判は口コミで広がり、今や全国的にその名が知られるようになった。待合室にはスポーツドクターとしての福島院長の評判を聞きつけた若いアスリートもいた。
肩こり治療に超音波エコーを使う発想は、東京ヴェルディの専属医時代の経験にあった。
「サッカー選手はよく肉離れを起こします。肉離れは筋肉の細かな断裂なのですが、治りかけに患部が線維化して固くなることがある。その具合をエコーで調べていました。肩こりは筋肉が固くなることで起こりやすい。そこで『肩こりにも応用できる』と考えたのです」(同前)
例えば、肩の動きを司る腱板と呼ばれる筋肉が炎症を起こして痛む肩こりの場合、腱板の下にある袋状の筋肉にヒアルロン酸を直接注射する。
「エコーで確認しながら正確に針を差し込むことで、薬剤の効果が最大限に引き出されます。どこがコリの原因かを的確に見極めることができるのは、スポーツドクター時代の経験が生きている」(同前)
多くの患者から支持されている理由は他にもある。医療機器メーカーのテクノリンク(新潟県)と福島院長が共同開発した、肩こり治療機器『ライズトロン』だ。「超短波」を照射することで、表面の皮膚に与える影響を最小限に、患部だけを温めることができるという。
「肩こりの原因となっている深さ2~3cmほどの部分にある筋肉のしこりに超短波を当てることで、筋肉を温めてコリをほぐします。電子レンジの原理に似ています」(同前)
実際に記者も照射を受けた。皮膚は全く熱くならないのに、内側の筋肉がじんわりと温かくなっていく。火傷するような熱さではなく、芯から温まる感覚だ。肩周りの血行が良くなったのか、筋のつっぱった感覚が軽くなっていた。
「2年の開発期間を経て、2012年から使い始めました。今では全国のクリニックに導入されていますが、当院を選ばれる患者さんは少なくないですね」(同前)
※週刊ポスト2016年6月24日号