2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、カール・マルクスの「宗教は人民の阿片である」という言葉の意味についてお届けする。
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「宗教は阿片」はカール・マルクス(1818~1883)の有名な言葉です。『ヘーゲル法哲学批判序説』で彼は当時のドイツ人民が宗教聖職者と貴族によって支配されている状況を批判しました。批判とは「良いものを選ぶ」という意味で、非難とは違います。
周知の通り、マルクスの著作は後に共産主義革命を起こしました。マルクスが思い描いた社会は共産主義という民主主義でした。しかし、その後の歴史では共産圏は官僚主義となり、むしろ資本主義の国家が民主主義に近い形になりました。最近は「世界がもし100人の村だったら」が指摘するように資本主義にも限界が来ています。今後のインターネットによる情報拡散は民主主義の実現に貢献するでしょう。
さて、マルクスは「宗教は阿片」と表現することで、政治を病気の治療に見立て、阿片を比喩的に用いました。要約すれば、「痛みの原因が治せるのに、それを治さずに、痛み止めの阿片だけ与えている。今の政治はそれと同じだ。貧困という病気の原因を治さずに、それを放っておいて、対症療法としてキリスト教という宗教を与えている、それは良くない」と言っているのです。
つまり、貧困に対して、労働に賃金を払うという根本的な解決法を取らずに、代わりにお金に換算できない価値である宗教を与えていたということです。