バラエティー番組『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)が20時スタートの2時間番組にリニューアル後、高視聴率を記録している。実はこの編成、テレビ界では異例といわれており、その成功はテレビ局関係者を驚かせているという。テレビ解説者の木村隆志さんがTBSの編成戦略について解説する。
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昨年10月にリニューアルしたときは、「2時間のレギュラー番組なんて大丈夫か?」という懐疑的な見方がほとんどでした。しかし、フタを開けてみたら、『ぐるナイ』『秘密のケンミンSHOW』の日本テレビ、『奇跡体験アンビリーバボー』『とんねるずのみなさんのおかげでした』のフジテレビ、『科捜研の女』『ドクターX』などを生んだ看板ドラマ枠のテレビ朝日と、強力な裏番組が並ぶ中、毎週トップクラスの視聴率を叩き出しています。
しかし、視聴率や番組の内容以上に各局のテレビマンたちを驚かせているのは、『モニタリング』が“21時またぎ”の番組として成功していること。長年21時は、「視聴者層が変わる時間帯」と言われ、3時間に渡る大作映画などでない限り、21時またぎの番組は放送されませんでした。
21時は小学生や高齢者がテレビを消して寝る、会社員が帰宅して落ち着く時間。番組もCMも、視聴者層の入れ替えを意識して放送されてきました。言わば、「番組の21時またぎはしない」はテレビ業界の常識となっていたのですが、TBSはその常識を破るチャレンジをしたのです。
TBSが21時またぎの番組を放送しているのは、水曜の『水トク!』、木曜の『モニタリング』、さらに火曜の『マツコの知らない世界』、金曜の『ぴったんこカン・カン』と『中居正広の金曜のスマイルたちへ』も2か月に1度程度“21時またぎ特番”が放送されています。スポンサーとの調整という難題こそありますが、好調が続けば残りの曜日も追随する可能性はあるでしょう。
なぜTBSはリスクもある21時またぎに挑んだのでしょうか? 考えられる理由は以下の3つ。
1つ目の理由は、視聴者を自局に引きつけておくための施策。21時は各局の看板番組がスタートするタイミングだけに、番組をまたがせることでチャンネルを変えられないようにしているのです。実際、『モニタリング』では21時またぎのタイミングで人気コーナーや目玉ゲストの企画を放送していますし、視聴者の中には「やっぱり『モニタリング』をそのまま見続けることにして、21時からのドラマは録画にしよう」と予定を変える人も多いでしょう。
2つ目の理由が、テレビ朝日の成功にヒントを得たから。2012~2013年にかけてテレビ朝日は、19~22時の3時間特番を連発して視聴率争いのトップに立っていました。現在は3時間特番という形式が視聴者に飽きられてグッと減りましたが、「21時またぎでも視聴率は取れる」というモデルケースになったのは間違いありません。つまりTBSは、視聴者のライフサイクルやテレビ視聴傾向が変わりつつあることを踏まえて、21時またぎを決断したのではないでしょうか。
3つ目の理由は、19時台、22時台の番組の人気が安定している半面、21時台の番組が不調だったから。この数年間で、19時台の『所さんのニッポンの出番』『生き物にサンキュー』『プレバト!!』『爆報!THEフライデー』、22時台のドラマ枠、『水曜日のダウンタウン』『櫻井・有吉THE夜会』の人気が安定し、ある程度の計算が立つようになりました。
そのため両時間帯の間にあたる20~22時の番組で思い切った挑戦がしやすくなり、21時またぎが実現したのでしょう。他局は19~21時か21時~23時の2時間特番が大半を占める中、TBSの特番は21時をまたぐ20~22時を中心に考えられ、それだけでなく『モニタリング』のようなレギュラー番組まで作って勝負をかけたのです。
前述したように、2時間のレギュラーバラエティー番組も、21時またぎの番組も、TBSのみならず、テレビ業界にとっても大いなる挑戦。その勝負に勝ちつつある今、さらなる大胆な“編成改革”はあるのか? TBSは今最も目が離せないテレビ局と言っていいでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。