桑名正博(旧芸名・将大)さん(享年59)の息子で、バンド・トライポリズムのボーカルとギターを担当する美勇士(35才)。「父の日」のこの日、面影を振り返り在りし日の桑名さんと現在の心境を語った。
* * *
幼い頃に離婚した両親。桑名正博さんを「オヤジ」と呼ぶには、ずっと抵抗があった。母親のアン・ルイスは、超売れっ子の歌手。週末、アメリカンスクールの寮からアンさんの元に戻り、朝、母親が出演しているテレビに「マミー、おはよう」と声をかけても、もちろん何も応えてくれない。
桑名さん、アンさん、少年時代の想い出一つ一つが、ぼくを強くしたと思っていますよ。
中学時代は大阪で桑名さんと暮らした。桑名正博は人生が音楽のような人だ。桑名さんはシャイで寂しがり屋だった。大阪・ミナミの焼肉屋に向かう途中で友達に電話をし、呼び寄せた仲間と店で騒いで盛り上がるのだが、ふとひとりになりたくなるのだろう。ぼくに財布を渡して会計を任せ、店から姿を消すことが多かった。
一方で、桑名正博の武勇伝は数多い。父親の時代、ロックをやれば不良だったが、音楽には実にマジメだった。ライブの打ち上げで、「あのパート、ミスっただろう」と、けんかが始まる。止め役はいつもぼくだった。
桑名さんのけんかには理由があったのだが、18才のあのときは違った。風邪薬をのんだ桑名さんは、ライブの打ち上げで酒が入り、メロメロになり、ステージのミスを爆発させ、周りの人を殴り始めたのだ。止め役のぼくが桑名さんに飛び蹴りを食らわせると、
「てめえ、ふざけんな!!」
ぼくに殴りかかってきて、お互いに血が出る大げんかになった。
親子の縁を切ってやる!
父親と連絡を絶ち2年ほどしたある日、渋谷のライブハウスで桑名さんと一緒になる機会があった。打ち上げが盛り上がると、「ちょっと裏に来んかい」と呼び出される。2人だけになると、
「美勇士、ごめんな…」