窮余の金正恩王朝が命綱とする外貨獲得ビジネスは、アートから肉体労働まで実に幅広い。ジャーナリストの李策氏が指摘する。
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アフリカにおける北朝鮮の外貨稼ぎはきわめて活発だ。
とくに独裁色の強い国々からは、国家指導者の権威を高めるための大規模建造物をいくつも受注してきた。平壌市内にある「チュチェ思想塔」や「凱旋門」の建設実績が買われたのだ。
そうしたビジネスの中心となってきたのが、北朝鮮の美術団体である万寿台創作社だ。
1959年に設立された万寿台創作社は、平壌美術大学卒などのエリートを中心に、1千人のアーティストを含む4千人のスタッフを擁する。金日成・正日・正恩氏らの肖像画制作はこの集団が一手に担っており、彼らを「神格化」する上で重要な役割を果たしてきた。
同社がアフリカで請け負ったプロジェクトの中で有名なのが、セネガルの「アフリカ・ルネッサンスの像」だ。ダカールを見下ろす丘の上に立つ高さ50mの巨大な像で、ブロンズ像としては米国の「自由の女神」を抜き、世界一の高さだ。
万寿台創作社はこの像の建設のため、150人のスタッフを現地に派遣。20万ユーロを稼いだという。
同社には先進国からの受注例もある。ドイツ・フランクフルト市が2005年、第2次大戦中に焼失したアールデコ調の大型噴水台の復元を依頼したのだ。
この件について報じた米誌「ビジネスウィーク」電子版(2013年6月6日付)のレポートによれば、1910年に制作された噴水台は図面が失われており、手掛かりは古い写真だけ。それをもとに復元するためには、現代アートの歩みに背を向け、ひたすら写実主義にこだわってきた北朝鮮の技術が必要だったという。
一方、万寿台創作社については、良からぬ噂も聞く。
「北朝鮮から中国へ、国宝級の骨董品が密輸されている」
以前、そんな情報を得た私は、北朝鮮との国境都市、中国・丹東に飛んだ。しかし、現地で巡り合ったのはことごとく、精巧な偽物だった。取材に協力してくれたブローカーは、次のように言っていた。
「中国で、北朝鮮の骨董品が盛んに売買されていたのは90年代までで、現在はほとんどが偽物。しかし美術品としての出来栄えは悪くない。さすが、万寿台創作社のレベルは高いね」
※SAPIO2016年7月号