参院選が事実上スタートした6月9日、宗教法人・生長の家がウェブサイトに掲載した声明が永田町に衝撃を与えた。
安倍政権の原発再稼働や安保法制による憲法解釈変更を批判し、
〈来る7月の参議院選挙を目前に控え、当教団は、安倍晋三首相の政治姿勢に対して明確な「反対」の意思を表明するために、「与党とその候補者を支持しない」ことを6月8日、本部の方針として決定し、全国の会員・信徒に周知することにしました〉
そう「反安倍」を宣言したのである。
生長の家といえば「明治憲法復元論」を唱えた初代総裁・谷口雅春氏が生長の家政治連合を立ちあげ、自民党右派の一翼を担ってきたことで知られる。現在も、憲法改正や靖国神社参拝など安倍首相の政治路線を強く支持する保守系民間団体「日本会議」の創立メンバーには生長の家出身者が多く、同会議の中核組織と見られていた。
それだけに、参院選真っ最中の自民党内には動揺が隠せない。教団側は声明で日本会議との関係も明確に否定した。
〈日本会議の主張する政治路線は、生長の家の現在の信念と方法とはまったく異質のものであり、はっきり言えば時代錯誤的です〉
その翌日には、谷口雅宣・生長の家総裁自ら念を押すようにブログでこう表明したのである。
〈私は、もうだいぶ前から自民党政権に愛想をつかし、本ブログあるいはその前身の「小閑雑感」上で民主党を応援してきたことは、本欄の読者ならよく知っているはずだ。ただ、宗教法人「生長の家」として、特定の政党の支持、不支持を表明したことはここ30年ほどないだろう。そんなわけで、今回の声明は“方針転換”と受け取られたのかもしれない〉
一体、何が起きているのか。日本会議と安倍政権との関係を掘り下げて反響を呼んでいる『日本会議の研究』(扶桑社刊)の著者、菅野完氏はこう見る。
「日本会議は生長の家の元信者を中心に運営されてきたが、教団は元信者たちの愛国運動を時代錯誤だと受け止め、元信者に対する批判として非難声明を出したと見るべきでしょう。一方で教団関係者や信者らの情報によれば、教団のなかには今回の参院選で、野党統一候補に投票するよう信者に呼びかける動きがある」
生長の家は公称信徒数約52万人(国内)、全国125か所に布教施設を持つ。そうした有力教団が反自民を鮮明にしたことで、民進党の選挙担当者が宗教関係者に「生長の家を紹介してほしい」と打診するなど票を取り込もうと懸命になっている。
※週刊ポスト2016年7月1日号