2年前に大手メーカーを定年退職した石田晃一氏(仮名・67)は、妻と過ごす時間が増えたことによる夫婦関係の変化に嘆き節が止まらない。「朝食時に話しかけても、返事は“うん”の一言。朝ドラから目を離さず、気がつけばトーストと目玉焼きという簡易メニューばかり。会話は日に日に減り、いまでは妻が何を考えているのかすら分からない」──。
こうした妻の心変わりに気づいたからといって指摘してはいけない。人は本心を見透かされることを嫌うからだ。では、どう対処すればいいのか。立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇氏が指摘する。
「自らが好意を持って接すれば、相手も好意を返そうとする心理、『好意の返報性』を使えばいい。好意は相槌を打つことで伝えられます。さらにその際、“さすが”、“知らなかった”、“すごい”、“センスいい”、“それで、それで?”と言葉を付け加える『さしすせその相槌』を意識すれば、より効果的です」
この相槌は、いかなるシチュエーションにも対応できる万能術だ。長年連れ添った妻にも有効なのかと半信半疑だった木村氏だが、カーテンが新調された際に「さすが、すごくセンスがいい」と対応。その後も毎日のように「さしすせその相槌」を実践したところ、1週間後には妻から話題を振ってくるようになったという。
褒め言葉も効果的だが、男性が自身の能力や成果を直接的に褒められることに弱いのに対し、女性は猜疑心が強いため安直な褒め言葉は逆効果になりかねない。
女性は「過程」を褒められることに喜びを感じるため、結果ではなくそこに至るまでの思考や行動などのプロセスを褒めることがポイントだ。
例えば、「今日の料理も美味しいね」ではなく、「疲れているのに毎朝、作ってくれてありがとう」といった具合だ。
夫婦仲の改善に繋がる褒め方は、ほかにもある。『悩み0(ゼロ)―心理学の新しい解決法―』(ワニブックス刊)の著者・神岡真司氏が語る。
「“キレイ”や“痩せた”などではなく、少しひねった褒め方が効果的です。難しく考える必要はありません。誰にでも当てはまるような一般的な褒め方でいいのです。これは『バーナム効果』と呼ばれ、相手が勝手に“私のことを理解してくれている”と思い込む心理効果です」
石田氏の妻は社交性に富んでいるので、「自由奔放に見られがちなところもあるけど、実は物事を冷静に捉えている」、「優しくて温かみがある、誰に会わせても問題ない」などと、万能的な褒め言葉をかけたところ、あの冷たかった妻から「長年一緒にいるとわかるものね」と、はにかんだ笑顔が返ってきたという。
※週刊ポスト2016年7月1日号