後出しジャンケン出馬?
東京都知事選挙を7月末に控えた現在の状況は、知名度の高い有力候補の出馬が相次いだ1999年の選挙に似ている。
「世界都市博覧会」の中止を決めた青島幸男・都知事が任期切れ間際になって再選不出馬を表明すると、まず民主党副代表だった鳩山邦夫氏が出馬。自民党では森喜朗・幹事長(当時)が自公相乗り候補として外交官出身の明石康・元国連事務次長を擁立したが、これに反発した柿沢弘治・自民党東京都連幹事長が離党して出馬、さらに国際政治学者時代の舛添要一氏まで出馬する大混戦となった。
選挙戦は鳩山vs舛添のデッドヒートと見られていたが、そこに告示日直前になって政界引退していた石原慎太郎氏が「東京から日本を変える」とまさかの出馬を表明して有権者を驚かせ、先行していた有力候補たちを最後尾からごぼう抜きしてダブルスコアで当選したのである。
組織票よりも浮動票、そして知名度とサプライズ感が勝敗を分ける都知事選ならではの逆転劇だった。
そしていま、民進党の蓮舫氏と自民党の小池百合子・元防衛相を軸とした与野党の都知事選びの迷走を大阪からじっと見つめている人物がいる。
慎太郎氏を「政治の師」と仰ぐ橋下徹・前大阪市長だ。政界を引退して“素浪人”となり、「政治家は僕の人生で終了」と政界復帰を否定し続けているのもあの時の慎太郎氏とそっくりではないか。
舛添氏が辞職を表明すると、おおさか維新の会の馬場伸幸・幹事長は橋下氏の都知事選出馬の可能性について「個人的見解だが、2万%ないだろう」と語り、橋下氏の盟友、松井一郎・大阪府知事も「出馬はない」と断言した。
だが、「2万%ない」とは、橋下氏が大阪府知事選に電撃出馬する前に語ったフレーズだ。橋下氏について取材してきたジャーナリスト・森功氏はこう指摘する。
「実は、数か月前、橋下氏が松井氏と馬場氏の3人で飲んだ席で、2人から『参院選は苦しい。このままでは負ける。出てほしい』と懇願された橋下氏が酔った勢いで『俺が出ればいいんだろ』と言ったという情報がある。それは酒の上での冗談だろうが、馬場氏が橋下氏を都知事選に出馬させたいのは本音でしょう。
橋下出馬となると参院選で伸び悩んでいるおおさか維新に勢いがつく。記者会見で馬場氏がわざわざ『2万%ない』という言葉を使ったのは、出てほしいというサインでしょう」
橋下氏は参院選の期間中、英国で行なわれる欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の視察のためにロンドン滞在の日程を組んでいる。帰国は参院選公示後の26日の予定だ。
慎太郎流の“後出しジャンケン”出馬には絶好のタイミングではないか。
※週刊ポスト2016年7月1日号