問題発言ばかりを繰り返す不動産王のドナルド・トランプ氏が共和党大統領候補としての指名獲得をほぼ確定させたのは、アメリカ社会が劣化し、閉塞感に満ちているからだとジャーナリストの落合信彦氏は指摘している。では、次の大統領を民主党大統領候補に指名されるヒラリー・クリントン氏にすればよいのか。これから起こりうるアメリカという大国のゆくえについて、落合氏が解説する。
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アメリカ社会の劣化と閉塞は、一般の市民をも追い詰めている。自殺が急増しているのだ。
この4月にアメリカ疾病対策センター(CDC)が発表した統計は、驚くべきものだった。1986年から1999年にかけて減っていた自殺が一気に増えて、2014年までの15年間で24%も増加した。中でも45~64歳の男性の自殺が増えていて、43%も増加した。
もっとも多い自殺の理由は経済的なものである。貧困に陥り、希望もなく、自ら命を絶つ。それが夢にあふれていたアメリカの現在の姿なのだ。
かつては国民の85%を占めていた中産階級は、いまや30%ほどになってしまった。格差が拡大し、中産階級から没落した人々が増えていることと自殺の増加には大きな関係がある。
そのアメリカを、次なる大統領は立て直せるか。残念ながらトランプにもヒラリーにも不可能だろう。トランプはまったく経済を知らないし、外交に関する知識もない。これまで高額所得者には減税すると言っていたのが急に増税すると言い始めるなど、政策には一貫性がない。
トランプが「在日米軍の駐留経費は日本がすべて負担すべき」とも言っていたが、彼は日米同盟の文書を読んだこともないのだろう。日本が多額の思いやり予算を支払っていることすら知らなかった。その程度の見識しか持っていないのだ。
一方のヒラリーも、私がかねて指摘していた通り、メール問題でFBIによる事情聴取を受ける見込みとなった。彼女が刑事責任を問われる可能性は十分にある。
現時点では、トランプとヒラリー、どちらが大統領になるか、まったく予断を許さない。だが、もしヒラリーが刑事責任を問われることになれば、あっさりとトランプで決まってしまう。
トランプが大統領就任演説でどんなことをしゃべるのか、想像すると笑ってしまう。と同時に、トランプのまわりにいるカネと利権漁りのことばかり考えているような輩がホワイトハウスに入ることを考えると、空恐ろしくもなる。
そうなったら本当に、アメリカというかつての大国は滅びの道を歩むことになるのではないか。
※SAPIO2016年7月号