今年も霞ヶ関の官庁で日本版サマータイム制度ともいえる「朝型勤務」が来月から始まる。満員電車を避けて早く会社に出て早く会社から帰るというのは、アフターファイブも充実してハッピーだらけに見える。民間企業でも「朝型勤務」を導入するところも出てきた。だが問題はないのだろうか。わが国の睡眠学研究の第一人者である国立精神・神経医療研究センター部長・三島和夫さんに話をうかがった。(取材・文=フリーライター・神田憲行)
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国家公務員の勤務時間を前倒しにする「朝型勤務」は勤務開始時刻を1時間から2時間早める制度で、7月と8月の2カ月間行われる。狙いは「長時間労働の抑制によるワーク・ライフ・バランスの実現」「仕事の効率化を通じた労働生産性の向上、余暇充実による需要創出」だ。昨年からこの制度は始まり、政府が実施後に参加した公務員(約22万人)に行ったアンケート調査によると、肯定的だったのが4割弱、「朝起きるのが辛かった」が3割弱、「寝不足になった」が2割強だったという(朝日新聞2015年10月31日)。
良いことずくめの企画と考えられたのだが、評価は分かれた形だ。三島さんは朝型勤務の問題点について、今年、「あなたの睡眠を改善する最新知識 朝型勤務がダメな理由」(日経ナショナル ジオグラフィック社)という本にまとめた。
それによると、朝型勤務の問題点は4つに集約される。
1:睡眠時間を前倒し(朝型)にするのは体内時計のメカニズムからハードルが高い。
2:結果的に現状でも限界に近い睡眠不足をさらに悪化させる可能性がある。
3:朝型勤務に適応しにくい労働者が少なからず存在する
4:特に体質的に夜型傾向の強い人では適応しきれず心身の不調を引き起こしかねない。
「朝型勤務の最大の問題点は、朝型夜型という睡眠の体質(クロノタイプ)を無視して一斉に一律に課しているところです」
と、三島さんは語る。「朝型体質」とは午前中に活動のピークタイムがある人、「夜型体質」はそれが夕方近くから夜前半ということだ。
「体内時計の調整というのは非常に難しいんです。たとえば夜型の人が平日は頑張って早起きしても、週末にいわゆる『ドカ寝』すると一気に体内時計は元に戻ります。週末も寝不足に耐えて平日と同じリズムで暮らしても、朝型の生活にするのに3週間はかかります。欧米のサマータイムを4月から10月と長い期間やってますから、3週間かけて調整しても意味がありますが、政府が勧める『朝型勤務』だと期間の半分近く終わっています」
「また体内時計は個人差も大きく、健康的な人が50人集まれば、体内時計で7時間のずれがあります。自然に寝起きしやすい時間帯にそれだけずれがあるという意味です。それなのに一律に早起きを強いるというのはどうでしょうか。そもそも現代は江戸時代からみて生活時間帯が1時間半くらい後ろにずれこんでます。光環境(体内時計に影響を与える要素のひとつ)も、夜型になりやすい。そこで朝型勤務とするなら、交通機関の運行、保育園の開始時間とか、社会全体で継続的に取り組むべき問題です」