手段を選ばないとはこのことだろう。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
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今年4月、浙江省杭州市の病院で入院中の患者のスマートフォンが盗まれるという事件が起きた。被害にあったのは杭州市内にある複数の大病院で、狙われたのは主にスマートフォンの最新機種であった。
事件は、5月末に地元警察が記者会見したことでメディアが一斉に取り上げられることとなったのだが、ここにはメディアが飛びつく一つの重要な要素があった。
「実は、4人から成るこの窃盗団のメンバーは、全員が女性であったというだけでなく、妊婦あるいは授乳中のママであったという特徴があったのです」
と語るのは北京の夕刊紙記者である。
「被害の通報が入ったのは4月13日のことです。杭州市公安局上城区分局小営派出所は2件の窃盗事件について調べ始めたところ、そこに杭州市内の別の病院からも被害に遭ったという報告が続けて飛び込んできて、事件が広がっていったのでした。
こうした動きを受けて同分局の刑事偵査大隊が作戦室を設置。各病院の監視カメラを徹底的に見直したのです。その結果、4人の女性のグループに行き当たり彼女たちを特定し、逮捕に至ったということでした」
だが、実際に逮捕といっても簡単なことではなかったようだ。というのも4人は地元杭州市の住民ではなく湖南省からわざわざ出張してきていたからだ。
4月15日、地元警察は4人のうち3人がすでに湖南省に向かう列車のチケットを購入済みであることを突き止め、当日、列車に乗り込んでいるところを発見し、逮捕したという。
それにしても身重の女性が長い時間かけて移動してきて、さらに危険を冒して窃盗を働くなどあまりにリスクが高い。なぜそんなことになるのだろうか。前出の夕刊紙記者はこう解説する。
「実は、中国もいま警察の横暴に対して市民の目が厳しく、ちょっとしたことで暴動に発展しかねない事情があるのです。とくに妊婦に対する行動には神経質になっているのです。ですから犯罪グループはそうした状況を利用して、末端で警察に捕まりやすい仕事をさせるために妊婦や子連れの女性をリクルートしているのです。
例えば、高級ホテルの前で客引きをしたり、ビラを配っているのも、いまはたいていそうした女性です。これは中国一の歓楽街と称された東莞市に大規模な一斉捜査が行なわれて以後に定着した傾向です」