165億円もの大金を払ってヘッドハントした“後継者”に対し、「もうしばらく自分が社長でいたい」と告げて決別したソフトバンクの孫正義・社長(58)。孫氏のような創業社長が、経営の第一線から退くタイミングを迷うのは珍しいことではない。大物創業者や敏腕経営者が去り際の判断に迷いを見せるケースが相次いでいる。
「60にもなってないのに引退? 冗談じゃないぞ、というふうに申し上げました」
6月22日に行なわれたソフトバンクの株主総会で、孫氏の判断をそういって擁護したのは、同社の社外取締役を務める柳井正氏(67、ファーストリテイリング会長兼社長)だった。
柳井氏はこの席で、孫氏のような創業者が後継を探す場合は、もっと時間をかけてチームで経営する体制を整備するべきだと述べている。
ただ、そう語る柳井氏自身、以前は「60歳で引退」を公言していた。柳井氏が「創業者がいつまでも残っているのはよくない」として、社長の座を玉塚元一・常務(当時、現・ローソン会長)に譲り、会長に退いたのは2002年のことだった。当時、柳井氏は53歳。社長交代会見で退任理由をこう語っている。
「60歳で退きたいと思っていた。それまでに経営チームをつくっていく必要がある」
7年後には会社を離れることを示唆したわけだが、孫氏のケース同様、この方針は撤回された。わずか3年後の2005年、柳井氏は玉塚氏を退任させ、56歳で社長復帰した。経済ジャーナリスト・永井隆氏が解説する。
「柳井氏退任前年の2001年8月期は、ユニクロのフリースが大ヒットして売上高が4180億円まで伸びていましたが、玉塚体制ではヒット商品を生み出せず、2005年8月期には売上高が3800億円にまで落ちてしまっていた。周囲からも、柳井氏の再登板が期待されていました」
結局、ファーストリテイリングは売上高1兆6000億円超(2015年8月期)の企業へとさらなる成長を遂げたが、柳井氏は67歳になった今も社長のままで「60歳で引退」は実現しなかった。