韓国で反日感情が高まる理由の一つに、学校や社会を通じて行われる「反日教育」の存在が指摘されている。韓国の教育問題についての著書があるジャーナリストの崔碩栄氏が最近の事情を報告する。
* * *
日本には、「韓国の教育イコール反日教育」というのは誇張されたものであり、韓国人が悪いイメージを持つのは偏向した教育のせいではなく、過去の歴史やそれに対する日本の態度のせいだと強弁する人たちがいる。しかし、それだけで韓国の反日教育を否定するのには無理がある。
ここで韓国の反日教育の実態を端的に見せてくれる一つの例を紹介する。
長年、慰安婦強制連行の一つの根拠とされてきた吉田清治の証言は2014年8月、朝日新聞がきちんと検証せず報道してきたことを認め、関連記事を取り消したことで信頼性を失った。
朝日が誤報を認めたことは評価すべきだが、朝日が組織した「第三者委員会」の調査報告書には納得いかない内容があった。吉田証言が〈欧米、韓国に影響を与えたかどうかは認知できない〉という部分だ。影響を小さく見せたい「気持ち」はわかるが、これは韓国の現状に目をつぶったあまりにも無責任な言説だと言わざるを得ない。
吉田証言が韓国で「常識」だったことは、韓国公営放送EBSの教育内容を覗いてみるだけでも確認できる。EBSは教育専門の放送局で、KBSから分離された公営放送だ。日本のNHKのEテレと類似しているが、大学受験のためのプログラムがある点が違う。
EBSの大学受験科目教育は韓国の高校教育課程の「スタンダード」といった位置づけで、実際、2015年の全国共通の大学受験問題ではEBSの教育内容から70%が出題されるように比率まで決まっている。受験生にとっては避けて通ることのできない「必須コース」だ。その「必須コース」の中で、近年まで吉田証言を教えていたのである。
朝日の記事取り消しの9か月前の2013年12月。EBSの歴史科目(インターネット講義)で慰安婦に関する内容が紹介された。驚くことにその講義では「6千人を直接連行した」「健康な女性を選んでトラックに乗せた」という吉田証言がそのまま引用、紹介されていたのだ。
これは、近年まで吉田証言が韓国社会で「常識」として通用しており、大学入試にも必要な重要な出来事として、学生に伝えられていたことを示す動かぬ証拠だ。公営の教育放送で放送された吉田証言を見ても、第三者委員会は「韓国に影響を与えたことはなかった」と言い切れるだろうか。そして、嘘の証言をもって日本に対する否定的なイメージを拡散しているこの放送を見ても、反日教育は無いといえるだろうか。
※SAPIO2016年7月号