世界で最も清潔な羽田空港の清掃員・新津春子さん
イギリスにあるスカイトラックス社が実施する国際空港ランキングで、2013年、2014年、2016年と“世界で最も清潔な空港”という栄冠に輝いた羽田空港。その羽田をきれいにする清掃員700人を統括するのが、新津春子さんだ。
彼女を一躍有名にしたのは、2015年に放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)。名だたる著名人の放送回をさしおいて、同年最高視聴率を記録した。
空港を歩くだけで、握手を求められる。90才のおじいちゃんからファンレターも届く。この1年で本を4冊出版した。
「心境の変化はありますよね、やっぱり。今まで清掃しか知らなかったのに、急にいろんなメディアの人に出会ったり、人の前で話をするようになったりして、世界が広がった気がします。たくさん話す機会が増えたから、私の日本語もちょっと上達したかな(笑い)」(新津さん、以下「」内同)
新津さんは、中国残留日本人孤児2世だ。中国では日本人ということでひどいいじめを受けたが、砲丸投げ選手になるほど体を鍛えてはねのけた。以来、負けん気は人一倍強いと笑う。
高校卒業後、音響会社に入社するものの、清掃の基礎を学ぼうと退社。品川高等職業訓練校(現・城南職業能力開発センター)に入り直した。
「私は、仕事を覚えきってしまうとつまらないの。新しいことがないと飽きてしまうんですよ。その点、清掃には終わりがない。最初は誰でも汚れを落とせるのに、ある時点からプロでないと手が出せなくなる。深い世界なんです。
さらに、昔はこう清掃してきました、が通用しません。空港では80種類くらい洗剤を使っていますが、年に1度、各メーカーが新商品を出してきます。清掃道具ももちろん進化しますし、床材や壁材なども新しい素材が出てきます。どの洗剤とどの道具をどう使えばいいか、常に勉強し、テストを重ねる日々が楽しいんです」
◆やさしさは日本人に足りているのか
高校時代から清掃のアルバイトを3つ掛け持ちしながら十数社で経験を積み、清掃の基礎も学んだ新津さんだが、本当の意味で“清掃のプロ”になったのは、現会社の上司である、常務の故・鈴木優さんの言葉が大きかった。
それは1997年、自信満々で出場した『全国ビルクリーニング技能競技会』の予選で、2位を獲った時のことだ。
「1位狙いで参加したから、2位はいらないの。賞状なんて捨ててくださいって泣きじゃくって…激しすぎますよね、私(笑い)。そしたら、鈴木常務が私のことを、“技術はあるかもしれないけど、やさしさがないね”って言うんです。最初は意味がわからなかったけど、使う道具に対する気遣いや、そこを使いたいお客さまへの心遣いが足りないということだったんです。