4月に新社会人が職場へやってきて3か月が経った。仕事にも慣れ、そろそろ戦力になり始めるころだが、早くも職場を離れる新人があらわれる季節でもある。立つ鳥跡を濁さずというが、足跡を残しまくった新人の辞め方が聞こえてきた。辞職願の伝え方で文字通り開いた口が塞がらなかったというのは、アパレル会社で総務を担当する20代女性が言う。
「ファックスやメールで辞表が送られてきたとか聞いても、まさか、そんな非常識な人はいないだろうと思っていました。うちの会社には見た目が派手で敬語もうまく使えないような子も多いですが、今までなかったので。でも、現実は冗談みたいなことが起きるんです。LINEのメッセージ、しかもゆるキャラが泣きながら謝っているスタンプつきで『会社辞めます』がきました。作り話だと思っていた自分にも起きたから、同じような思いをしている人がまだいるはずだと思ってやり場のない怒りを鎮め、心を落ち着けようとしています」
印刷会社の制作部で働く40代男性は、4月から預かった新卒が突然、出社してこなくなった。LINEでメッセージを送っても、既読にすらならない。すると数日後に親がやってきて、こんな仕事だとは思っていなかったから辞めると告げられた。
「母親が総務に来ているから事情説明に来てくれと言われて行ったところ、長時間勤務で、しかも無意味なことばかりさせるのはなぜだと言われました。地味に感じたかもしれないが確実にできて、出来上がったことで達成感も感じられるような作業を選んでやってもらっていたのだと説明したのですが、納得してはもらえなかったようです。これまで何人も新卒を預かりましたが、本人ではなく親がやってきたのは初めてでした」
平成24年3月に大学を卒業した者の離職率は32.2%にのぼる(厚生労働省「新規学卒者の離職状況(平成24年3月卒業者の状況)」調べ)。そのうち1年目で辞めた者が13.1%、2年目が10.3%で3年目が8.9%とあり、1年目がもっとも多い。つまり、1年目を乗り切れれば、仕事を続けられる確率が高くなるということでもある。
「やっと辞めてくれました」とホッと胸をなでおろしたのは、IT会社勤務の30代男性。今年の新人教育をまかされて、世の中にはどうにもならないことがあると思い知らされた。大学卒業したての男性が、報告書や書類の作り方、メール報告の要領、コピーのとり方やごみの捨て方まで、何を教えてもひとつも覚えず、何もできるようにならないが、妙な自信があって努力をしなかったのだ。
「後から入ってきた業務補助の学生アルバイトにも追い越されるような状態なのに、自分で努力している様子もみられませんでした。返事はとてもいいから、最初は緊張しているだけかなと思って見守っていたのですが、結局、ちっとも理解してもらえなかった。5月末くらいから、この仕事に向いていないみたいだから、やり直しがきくうちに将来を考えたらどうだと言ったのですが、その頃から迷走が始まりました」
将来を考えろという忠告をまじめに受け止めた新人の彼は、6月中旬に上司へ「辞めます」と伝えた。ところが、その3日後に辞職を撤回。しかしさらに5日後にもう一度、上司へ「やっぱり辞めます」と言いに行った。このやりとりを3往復繰り返したのち、出社は6月いっぱいで自己都合での退職が決まった。