デリーダバの「マトンビリヤニ」
本格派インド料理店で高い人気を誇るのが、マトンカレーをはじめとする羊料理だ。羊肉とスパイスは非常に相性がいい。クミンやカルダモンなどが、羊肉の独特な臭みを抑えつつ、内なる香ばしさをさらに引き出してくれる。ビールにも合うし、暑くなるこれからの季節にピッタリだ。
インド&スパイス料理を探求する『東京スパイス番長』メンバーで、レシピ本『バラッツ流! 絶品スパイスカレー』(ナツメ社)を上梓したばかりのメタ・バラッツ氏が推薦するのは、東京・西葛西にあるインド料理専門店『デリーダバ』のマトンビリヤニである。
「ビリヤニとは、スパイスをふんだんに使ったインドの炊き込みご飯で、祝いの席などでよく食べられます。このお店のマトンビリヤニは羊肉がやわらかく調理され、スパイスのバランスもいい。マトンカレーも本場と変わらない深みがあり、おいしいですね」
日本米よりもはるかに細長いバスマティ・ライスのパラパラとした食感が、羊肉の旨味をより引き立てる。ライタというヨーグルト風味のソースとマサラソースを少しかけると深みが増すのでオススメだ。ぜひ一度食べてみてほしい。
インドにルーツを持つバラッツ氏が、意外な「真実」を教えてくれた。日本でマトンといえば羊が用いられるが、本場インドでは「山羊」が主流なのだという。
「インドで『あなたにとってマトンは羊、山羊どちらですか』と街頭インタビューをしたところ、80~90%が山羊と答えました。実際、カレーもビリヤニも現地では山羊の肉を使う。チキンに次いで親しみがある食肉です。山羊肉のほうが食文化として定着し、安くて仕入れもしやすいのでしょうね。
羊肉を食べることもありますが、僕が知る限りは街の食堂などにはなく高級店で出されている。西洋の香りがするモダンな店です。羊はそもそも羊毛や皮製品のための商業用の動物で、インド人いわく肉に臭みがあるのだと。山羊肉のほうが臭みは強いと感じる日本人とは、感覚がまったく逆ですね」
本場は山羊かもしれないが、日本で発展した「羊のインド料理」もなかなか侮れない。
■取材・文/渡部美也 ■撮影/小松潤
※週刊ポスト2016年7月8日号