山田隆夫(59)が、舞台袖から大喜利メンバーの背中を真剣な表情で見つめている。袖に一番近い位置に座る林家たい平が、得意の「山田いじりネタ」で笑いを取る。その瞬間、山田が勢いよく飛び出し、たい平を後ろから突き倒して、怒ったように座布団を引っぺがす。その鉄板ギャグに会場がドッと沸く。
「噺家さんの話芸に対し、自分はチャップリンの芸、つまり動きで笑いを取る芸です。出て行くタイミングが大事なので、特にたい平くんが喋っているときは、いつ出てもいいように準備しています。タイミングの取り方は、昔、『ずうとるび』でバンドとコントをやっていたことが役立っているんです」
先の5月、『笑点』(日本テレビ系、毎週日曜17時30分~)が50周年を迎え、桂歌丸の勇退、春風亭昇太の司会就任、林家三平のメンバー入りなどが大きな話題になった。山田がその国民的演芸番組の6代目座布団運びとなって今年で32年目だ。
1984年、それまでの体の大きい松崎真に代わり、「小さい男に座布団を運ばせたら面白い」と、身長155cmの山田に声が掛かった。
「それ以来、会社員のように規則正しく2週に1回、2本分の収録を繰り返していたら、あっという間に30年以上経ちました。毎年春に1年先までの収録スケジュールが渡されるのですが、それをもらうと『ああ、来年までは仕事があるな』と(笑い)。その繰り返し」
山田が“新人時代”を振り返る。
「当初は冒頭の挨拶にも困りました。師匠方のあとに挨拶するので、用意していたネタが使われてしまうんですよ。それで、喋りを勉強しようと、鈴々舎馬風師匠の一門に弟子入りし、落語の勉強をしました。着物を着たときの所作を身につけるため、日本舞踊の師匠にも1年間習いました」
座布団運びは誰にでもできる──と思われがちだが、そこには計算された芸があり、そのうえに「山田くん」キャラがあって笑いが成り立つ。
座布団運びを始めて数年後、当時の司会者・先代三遊亭圓楽がメンバーの林家こん平に、
「山田くんを目立たせるために山田くんの悪口をいってよ。山田くんは袖から出てきて、こんちゃんをドツいて、座布団を取っちゃっていいから」
と提案し、「山田いじり」が始まった。
次の司会者・桂歌丸はさらに「頭にカビの生えた人」などと紹介し、山田をさらに目立たせた。そうして与えられたチャンスを生かし、山田以外では成り立たない「山田くん」キャラを確立した。
撮影■橋本雅司 文■鈴木洋史
※週刊ポスト2016年7月15日号