1月のスタートから今も視聴率好調が続くNHK大河ドラマ『真田丸』。個性的な役者が印象深いキャラクターを演じているのが魅力のひとつだが、それは出番が少ない役者の演技でも同じ。時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが、“独自の基準”でピックアップした意外な5人について綴る。
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そんなわけで、7月に入り、『真田丸』も後半へと折り返した。このドラマの特長は、出番が少ないのに強烈な印象を残す登場人物が多いこと。そこで今回は、そうした一発芸のような人物を再検証し、「『真田丸』上半期この人がよかった大賞」を勝手に認定してみたいと思う。ノミネートの条件は、3話以上出演していない人物(回想シーンを除く)である。
エントリーナンバー1は、「武田勝頼」。第1話、主人公の幼少時代が描かれず、いきなり武田滅亡から始まるとは正直意表を突かれたが、真田昌幸(草刈正雄)らがなんとか救おうと奔走したのに、勝頼は結局家臣に裏切られて果てる。演じた平岳大はそれまで感じの悪いエリートを演じることが多かったが、ここでは滅びゆく名門の跡取りの悲哀を静かににじませる熱演だった。
エントリーナンバー2は、織田信長。戦国のカリスマ、大魔王的存在だが、このドラマで主人公の信繁(堺雅人)の前に現れるのは、わずか数分。第4話の初対面シーンでは、信長が履くブーツが映っていたのが22秒、吉田剛太郎の顔が映ったのが37秒であった。(計測はペリー)
エントリーナンバー3は、明智光秀。第4話で信長に足蹴にされ、顔から血を流した光秀。朝のワイド番組『いっぷく』で上品な知識人ぶりを見せていた岩下尚史の光秀は、大河ドラマ史上もっともなよっとした光秀にも見えたが、その回のラストでは、甲冑姿で「敵は本能寺にあり」と信長を襲撃するという大変化を遂げた。
エントリーナンバー4は、各方面でも話題となった徳川家康の妹旭と母のなか。仏頂面で(それでも笑っている)家康の前で一切セリフを言わないという信じがたい旭と、高度な名古屋弁を駆使して小日向文世や鈴木京香など居並ぶ豊臣家俳優を圧倒したなか。清水ミチコと山田昌にしかできない場面であった。
エントリーナンバー5は、伊達政宗。奥州の覇者として、恐ろし気な男だと言われてきたが、いざ、秀吉の前に出るとハイハイと掛け声を上げながら自ら餅をつき、「豆をつぶしたあんを乗せれば、名物ずんだ餅!」とにこにこ顔。できることなら伊達と手を組んで天下をひっくり返そうなどと思っていた真田昌幸もお調子者政宗を見て、カックン。長年、大河ドラマを見て、渡辺謙が主演した豪快な伊達政宗などに感動していた視聴者もカックン。ただし、ずんだ餅政宗には「もう二十年早く生まれておれば」「もっと京の近くで生まれておれば」という悔しさがあるのだった。演じた長谷川朝晴は硬軟さまざまなドラマに出演しているが、ビュインと刀を抜く動きは見事。タダモノではない気配が。
以上、エントリーしてみたが、ここでおひとり番外編を。このドラマでは初回から亡くなっていた武田信玄役の林邦史朗さん。林先生は大河ドラマの俳優・殺陣師として半世紀近く番組に関わってきた。大河ドラマの主役はほとんど林先生の指導を受けてきている。「ぼくは龍馬を三回斬った」というほど出演作も多く、大河ドラマの生き字引のような方で私も多くのことを教えていただいた。残念ながら、昨年76歳で急逝。この武田信玄が遺作となった。今頃、空から『真田丸』を見ていることだろう。
さて、揃ったところで誰が「この人がよかった大賞」か。個人的には、多くの人をカックンとさせ、あんなおちゃらけた独眼竜は見たことないという点で、伊達政宗を推したい。いかがでしょうか。みなさんの中には、どんなキャラが心に残っているか? 覚えていたら、下半期にお会いしましょう!