【書評】『教えて! 校長先生 「才色兼備」が育つ 神戸女学院の教え』林真理子+内田樹・ 著/中公新書ラクレ/740円+税
【評者】井上章一(国際日本文化研究センター教授)
私は神戸女学院の大学で、二年間だけ非常勤講師として、教壇に立ったことがある。授業を聴いてくれた常連は三〇人前後だが、なかにお寺の娘さんもいた。仏門の令嬢が、キリスト教系のミッションスクールにかよってくる。そのことをいぶかしく感じた私は、彼女に問いただした。あなたの親御さんは、こういう学校への入学に難色をしめさなかったのか、と。
ここは、むしろ両親にすすめられました。二人ともよろこんでくれましたよ。いい学校へ入れたって。私だけじゃあありません。女学院には、お寺の子もけっこういるんです。とまあ、以上のように彼女は答えてくれた。後で学習したのだが、寺の住職は、概して娘をミッションスクールへ、かよわせたがるらしい。我が子にお嬢様としての箔がつくよう、願ってのことであるという。
大学の宗教学は日本におけるキリスト教受容を、否定的に論じやすい。日本人はこの宗教をうけいれなかったと、言いたがる。こういう講壇学説を、私が見くびりだしたのは、女学院とであってからであった。みんなキリスト教の学校にあこがれているじゃあないかと、思い知らされたせいである。
この本では、中学部・高等学部の林部長(校長)が、教育方針のあらましを語っている。生徒の自主性を重んじる、すばらしい学校であることが、よくわかる。ざんねんながら、「才色兼備」の「色」には、あまり言及がない。こちらは、部長にかわり、私が言葉をおぎなっておこう。女学院の大学部は、『JJ』や『Can Cam』などの読者モデルを輩出する、関西有数の学校である、と。
あと、キャンパスの景観が見事であることも、うけあっておく。内田によれば、この美しい校庭と校舎群を売りとばすようすすめるシンクタンクも、あったという。その売却益で、モダンな新キャンパスを、某地に設営しろ。そうすれば、学校経営は好転すると、進言されたらしい。どうやら、ビジネスの世界には、あの環境価値に鈍感な者もいるようである。
※週刊ポスト2016年7月15日号