東京医科歯科大学歯学部付属病院には、インプラント手術でトラブルになった患者が連日押し寄せている。春日井昇平教授(インプラント外来)は、この事態に危機感を募らせていた。
「最近では初診で来る患者の5人に1人は他院トラブル。一番悲惨なのは神経損傷です。完全に切れたら今の技術では回復は難しい」
つまり、インプラント手術の失敗で、患者は顔面マヒ等の後遺症を一生抱えることになるのだ。
トラブルが減らない最大の理由は技術格差にある。特別な資格がなくても、歯科医であれば誰でもインプラント手術が可能だ。インプラントの関連学会は、主要組織でも4団体あり、インプラント認定医の条件も異なる。この資格要件を厳格化すべきという指摘はされてきたが、変化はない。
結果、リスク説明に力を割くのは一部の医師だけだ。
「この(他院の)患者さんは、鼻腔にインプラントが突き抜けています。インプラントには、メリットとデメリットの両面あるとご理解ください」
口腔外科医の経験を持つ小澤俊文院長(おざわ歯科医院、東京・練馬)はインプラントを希望する患者に対して、ショッキングなケースまで見せている。デメリットやリスクまで知ったうえで、判断してほしいと考えているからだ。
「インプラント手術は、顎骨という、神経や血管がある中へ打ちますので、本来は一般の歯科医がやっている範囲を超えているのです。だからインプラント手術を行なう歯科医は、口腔外科等で研修を受けることを義務づけるべきでしょう」
歯科医に対する信頼は、地に墜ちている。それを取り戻すのは容易ではない。
●レポート/岩澤倫彦(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2016年7月15日号