NHKスペシャル『“介護殺人”当事者たちの告白』は衝撃的な内容だった。介護のために精神的・経済的に追い詰められ、長年連れ添った妻や夫を、あるいは親を手にかけてしまう。事件の加害者たちを追い詰めた生活環境と精神状態は、「自分には起こり得ない」と決めつけることはできない。「老後破産」と「介護殺人」は紙一重なのだ。淑徳大学総合福祉学部教授・結城康博氏が警鐘を鳴らす。
「高齢者が増える中、高齢者間の貧富の差が激しくなっている。いま、年金受給者の4割が年155万円以下の低所得者ですが、これでは生活は相当苦しい。実は貧しいことと人間関係の孤立化は深く関係していて、ある程度お金のある人は人間関係を保つことができる。友人と喫茶店でお茶を飲むのにもお金が必要ですから」
そのわずかな年金で無職や非正規雇用の子供の生活まで面倒を見なければならないとしたら、ますます老後破産は避けられない。
「老後破産に陥ってしまったら、ためらうことなく生活保護を受けることです。生活保護を受給できれば介護保険料もタダになり、自己負担はゼロですから」(結城氏)
年金生活の親と非正規雇用の子供が同居している場合、世帯分離という方法で生活保護を分けてもらうこともできる。まずは相談窓口に連絡することだ。
だが、昨年11月21日、埼玉県深谷市を流れる利根川で、両親の面倒を見ていた三女(47)が一家心中を図った“利根川心中”事件では、生活保護受給が「将来への悲観」につながり、介護殺人に至る要因のひとつになってしまった。日本福祉大学の湯原悦子・准教授(司法福祉論)は社会のサポート体制が必要だと訴える。
「心中事件の場合、介護者がうつであることが多い。周囲が早めに気づいてサポートするだけで介護殺人はかなり減少すると思います」
将来、自分が介護殺人を招かないためにも、いまから老後破産を回避するべく、老後に備えることが必須である。
※週刊ポスト2016年7月15日号