物言わぬペットのとっさのトラブルに、どう対処すればいいのか、悩んだ経験がある人は多いのでは?
「トリミング後のこと。愛犬の様子がおかしいのでよく見てみると、肛門の横がえぐられて出血していて、お腹にも擦り傷が。店に連絡すると、「暴れる場合はそういうこともあると、同意書に記載済み」と言われました。その後、痛みで排泄ができなくなり、通院することに。店を訴えられますか?」(神奈川県・あき子、34才・会社員)
この悩みに、共著に『ペットのトラブル相談Q&A』(民事法研究会)などがある弁護士の杉村亜紀子さんが答えてくれた。
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大切なペットを傷つけられ、怒りとともに大きなショックを受けたことでしょう。トリミングショップは施術中にペットの体を傷つけないよう、安全に注意をしなくてはならない義務(善管注意義務)を負っています。ですから、けがをさせてしまったことについて、店側に善管注意義務違反があれば、損害賠償の責任が発生します。
しかし、突然ペットが暴れてけがをさせてしまったなど、充分配慮していたにもかかわらず、不可避的に事故が起きてしまった場合は、責任が認められません。
今回のケースでは、店側に義務違反があったかどうかがポイントになります。何があったかをしっかり聞き出し、傷の写真を撮る、診断書をもらうなど、証拠を残しておきましょう。
トリミングをお願いする際に、「何があっても店は一切責任を負わないことに同意する」という同意書を書かされることがあります。
“同意書に署名してしまったから、文句を言ってはダメなのでは”と思われるかたも多いですが、そんなことはありません。消費者契約法第8条により、事業者の損害賠償の責任を免除する条項は無効になりますので、同意書があったとしても、損害賠償の請求ができます。
義務違反が認められた場合、トリミングショップは、ペットのけがの治療費や通院のための交通費などの損害を賠償しなければなりません。
その他、けがの経緯や程度によっては、飼い主への慰謝料が認められるケースもあります。実際にトリミング中に猫の尻尾を約5cm切り落としてしまった事案では、トリマーの過失が認められ、飼い主の精神的ショックは大きいとして、裁判所は慰謝料10万円の支払いを命じました。
ペットにこそ慰謝料を、と考えるかたもいるでしょうが、残念ながら日本では、動物は法律上「物」として扱われます。そのため、ペットへの慰謝料は認められません。あくまでも、所有者である飼い主に、慰謝料が認められるだけになります。
いずれにせよ、飼い主は声を上げられないペットに代わり、同意書に惑わされることなく、しっかり主張してあげてください。
※女性セブン2016年7月21日号