日銀の黒田東彦総裁が今年1月にマイナス金利導入を発表して以降、日本株は冴えない展開が続いている。黒田総裁による過去2回の金融緩和では株価が大きく跳ね上がったにもかかわらず、なぜマイナス金利ではそうならなかったのか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として活躍した赤城盾氏が解説する。
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マイナス金利は、量的緩和が技術的に困難なユーロ圏などで採用されてきた非伝統的な緩和政策である。
もし、銀行の預金金利や貸出金利が広範にマイナスになったとしたら、相応に景気を刺激するかもしれない。
しかし、一般の預金からマイナスの利息を徴収することは、法律的にも政治的にも問題が大きすぎてほぼ不可能である。結局、マイナス金利は日銀が銀行から徴収するだけのものであり、その実質的な効果は銀行に対する課税に他ならない。
そういう事情で、既にマイナス金利を導入したヨーロッパでは、銀行の利益が激減して銀行株が暴落していた。それを見てきた海外投資家は、当然、日本の銀行株の投げ売りに走る。連動して日本株全体が売られ、条件反射的に円が買われた。長短金利はたしかに低下したが、対外投資の拡大がもたらすはずの円安期待は、株安のリスクオフによって吹き飛ばされてしまった。
日銀のマイナス金利政策は、量的緩和の行き詰まりという市場の懸念を煽るだけの失敗に終わったと評してよかろう。
この失敗は、決して見通し難いものではなかった。その証拠に、マイナス金利導入が決定された1月の金融政策決定会合の票決は、5対4の僅差である。総裁1名、副総裁2名を除いた賛成票はたったの2票しかない。
さらにいえば、賛成した2委員は、ともに金融業界の経験を持たない。金融政策に関してはほぼ素人であり、おそらく、執行部にいわれるがままに票を入れるマシーンのような存在なのであろう。
即ち、金融政策のあり方に独自の知見を有し、将来その判断の正否に職業的な責任を問われることになる業界関係者は、全員が反対票を投じたのである。
黒田総裁は、独断専行のスタンドプレーを好む。これまではそれで一定の成果も上げてきた。しかし、今後は、市場を動揺させないような丁寧なコミュニケーションを心がけて欲しい。
マイナス金利のような分かりにくい政策を、審議委員すらろくに説得できない状況で、国民に押し付けるのは勘弁願いたい。
※マネーポスト2016年夏号