「日米同盟は日本外交の基軸であり、世界の平和と繁栄のため緊密に協力していく」
安倍首相は、そう繰り返してきた。しかし、その「基軸」の片方であるアメリカに、変化が見え始めている。ドナルド・トランプ氏が日米同盟に批判的な主張をぶつけたことが話題になったが、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏は「アメリカでは、長く日米同盟懐疑論が語られてきた」と指摘する。古森氏は、米国内での日米同盟批判論は珍しくも新しくもなく、大別して最も過激な「破棄論」、「不平等・不公正論」、「縮小論・弱体化論」の3種類があるという。ここでは「不平等・不公正論」について古森氏が紹介する。
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米国内で、日米間の不平等、不公正を衝く同盟批判は超党派で広範にわたり、水面下で流れてきた。
東西冷戦中の1980年代、日米貿易摩擦が激しい時期、米側で日本の防衛への態度を「ただ乗り」とする批判は一貫して存在した。
1991年1月の第一次湾岸戦争ではアメリカ主導の約30か国の多国籍軍がクウェートからイラク軍を撃退した。日本はなんの行動もとれず、資金だけを供して「小切手外交」の汚名を受けた。
1997年6月にはアメリカ最大手の外交研究機関「外交問題評議会」が日米同盟には「危険な崩壊要因」がひそむとして、日本側の集団的自衛権禁止を指摘し、その解禁により、「同盟をより対等で正常な方向へ」と促す勧告を発表した。日本は有事になんの軍事行動もとれないという批判だった。
2001年1月に登場したブッシュ政権も日米同盟の強化には「双務性が必要」(ハワード・ベーカー駐日大使)だと強調した。日本の憲法に由来する集団的自衛権の行使禁止は同盟をあまりに片務的かつ不公正にすると述べたのだ。
同年9月のアメリカ中枢への同時テロではNATO(北大西洋条約機構)加盟諸国やオーストラリアが集団的自衛権を宣言し、国際テロ組織との戦いで対米共同行動をとった。日本はここでも集団自衛に背を向け、国際テロとの闘争にも協力しないと非難された。
2006年10月、ワシントンの主要研究機関「AEI」が北朝鮮のミサイルに対する日米同盟の機能は日本の集団的自衛権の禁止により大きく妨げられているとする報告書を発表した。要するにトランプ氏が述べた「アメリカは日本を守るが、日本はアメリカを守らない」と総括する日米同盟不公正論はすでに底流として存在してきたのだ。
日本の集団的自衛権は安保法制によりその行使が一部、容認された。だがまだまだ普通の国家並みの行使は認められていないのだ。
※SAPIO2016年8月号