今年の夏の高校野球大阪予選はPL学園高校野球部にとって「最後の夏」の戦いとなる。春夏通算7度の甲子園制覇を誇る名門校の最後の部員となる12人の中に、かつては当たり前だった野球推薦で入学した生徒は一人もいない。全員、一般入学の生徒たちだ。超強豪校に起きた“異変”を2年にわたって取材してきたノンフィクションライター・柳川悠二氏が、その注目選手をレポートする。
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PL学園高校野球部は昨秋、1回戦で同校史上はじめて公立校に敗れ、4月の春季大阪大会でも初戦敗退した。夏の高校野球大阪予選1回戦の東大阪大柏原戦(7月15日、花園球場)は、勝てば公式戦初勝利、敗れれば即ち60年の歴史を閉じる一戦である。
名門校の62期生となる部員たちは、入学時から野球経験のある監督が不在で、2015年度からの部員募集停止によって後輩もできなかった不遇の世代だ。2年にわたって彼らを取材してきた筆者には、とりわけ思い入れの強い選手がふたりいる。
ひとりは62期生を束ねる主将の梅田翔大である。4月の春季大阪大会・大成学院戦で背番号「1」を背負って先発した彼は、15安打を浴びて9失点を喫した。翌週に行われた東海大仰星との練習試合でも、16安打を浴びて8失点。
いずれの試合も集中打を浴びながら、投球数も100球を大きくこえながら、梅田はマウンドに立ち続けた。
実は、梅田は捕手が本来のポジションである。
現在のPLには12人の部員がいるが、そのうちのひとりは記録員で試合に出場することができず、もうひとりも右肘関節唇損傷という大けがを負っていて守備につくことも難しい。そしてエースの藤村哲平は、春先に右肘の炎症を起こし、長くマウンドに上がることができなかった。投手を専門とする選手が藤村だけのチーム事情の中で、“代役”を務める梅田がマウンドを降りたら試合を続行できない。それほど、春先のPL学園野球部は窮地に追い込まれていた。
梅田はその頃、こんなことを話していた。
「12人の部員しかいなくて、チームとしての底上げが期待できない以上、今いるメンバーで、戦うしかない。試合では、たとえ点差をつけられたとしても、最後まで食らいつき、そして逆転するのがPL学園の野球だと思う。最後の夏までに、精神的な部分を、底上げしていきたい」