「抗がん剤治療をしなければ余命は3か月。すれば余命は半年まで延びる」
東京都内在住の橋本昭一氏(仮名・69)は今年1月、医師からこう宣告された。橋本氏が「ステージIIIの大腸がん」と診断されたのは3年前のこと。
良好だった術後が急変したのは昨年末だった。食欲減退や倦怠感、腹部の痛みなどに襲われ、精密検査を受けたところ、肝臓とリンパ節への転移が見つかったという。橋本氏が話す。
「既に手術はできない状態でした。今も抗がん剤治療を続けながら、家族と自宅で過ごしています。余命といわれた半年に差し掛かりましたが、まだ何とか生きている。ただ、吐き気や下痢、手足のしびれなどの辛い副作用に悩まされ、眠れない日々が続いています」
数ある薬の中でも、「治療」と「延命」の境目が曖昧なのが抗がん剤だ。
昨年12月、肺がんの新薬として公的医療保険が適用された「オプジーボ」は“夢の特効薬”として注目を集めた。しかし、がん細胞が縮小するなどの効果が表われるのは肺がん患者全体の2割程度とされ、その効果も1年生存率を39%から51%に押し上げるに過ぎないという海外の臨床試験のデータもある。「肺がんが消えてなくなる」──といった過大な期待は禁物だ。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号