「旧華族」とは明治以降の貴族階級のこと。そんな旧華族の末裔たちが人知れず集う「霞会館」は、霞が関ビル(東京都千代田区)の34階にある。ここには一般人は入ることができない。
その旧華族にも「序列」がある。最高ランクは平安時代にルーツを持つ藤原北家の流れを汲む「五摂家」(近衞家、九条家、鷹司家、一条家、二条家)と武家の「徳川宗家」であり、明治維新後に「公爵」を授けられた。
中でも五摂家筆頭の近衞家は戦時期の首相・近衞文麿や細川護熙元首相を輩出し、現在の当主・近衞忠煇氏は日本赤十字社の社長を務める。鷹司家の現在の当主(28代目)である鷹司尚武氏は伊勢神宮大宮司の職にある。現首相の安倍晋三(大島家)や副総理の麻生太郎(牧野家)は旧華族といえども発祥は明治期。「五摂家」とは歴史が違うのだ。
公爵の下には位の順に「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」があり、頑強な華族ヒエラルキーを形成した。戦後、華族制度は廃止されたが、培った「人脈」は失われなかった。
恵まれた家系から信頼が厚く、各界に幅広い人脈を持つ旧華族は、昔から人と人を“つなぐ”役割を期待された。1200年の歴史を誇る「旧華族」四條家出身で、庖丁道で知られる日本料理の流派・四條司家の第41代当主の四條隆彦氏の父であり、先代の隆貞氏は、「政財界のフィクサー」として名を馳せた。
「父は田中角栄元首相のことを“エイちゃん”と呼んで親しくしていた。旧華族の一員として、霞会館を舞台に様々な業界や身分の人を繋げていた」(隆彦氏)
影響力は政財界にいまなお現存すると、『日本の華族 その栄光と挫折の一部始終』(新人物往来社刊)の著者で静岡県立大学の前坂俊之名誉教授も指摘する。
「財閥系の閨閥には婚姻を通じて多くの旧華族が繋がっている。今も霞会館というインナーサークルを通じて新しいビジネスが生まれている」
※週刊ポスト2016年7月22・29日号