新しい抗がん剤が認可、適用されると「夢の特効薬」ともてはやされがちだが、効果をみると、過大な期待は禁物だといったものも少なくない。たとえば昨年12月、肺がんの新薬として公的医療保険が適用された「オプシーボ」は、がん細胞が縮小するなどの効果が表われるのは肺がん患者全体の2割程度。他の代表的な抗がん剤にしても、胃がんに使われる「サイラムザ(一般名:ラムシルマブ)」で延命効果が2.2か月など、シビアな数字が並ぶ。
『長尾クリニック』院長の長尾和宏氏が話す。
「抗がん剤を“がん細胞だけを殺す薬”、“がんを治す薬”と思っている方が多いですが、白血病や悪性リンパ腫など一部の血液がんを除き、多くの場合、完治を目指したものでなく、延命効果を期待して使われています。
抗がん剤は副作用の強いものが多いため、治療を長く続けているうちにデメリット(副作用による健康への悪影響)がメリット(薬の効能)を上回る時がやってくる。その時点から治療は、『延命』でなく『縮命』へと本末転倒になってしまうのです」
「縮命」とは副作用などによるデメリットが上回り、寿命を縮めてしまう状態。加えて、肉体・精神的苦痛が増し、生きている喜びや楽しみが奪われ、本人も家族も苦しみと悔いに囚われる状態を指す。
「抗がん剤治療をやめただけで、嘘のように食事を取れるようになったり、病院から自宅に戻っただけでみるみる元気になっていく患者さんを私は何人も目にしてきました。抗がん剤を適切な時期にやめたことで、寿命が延びたものと考えています」(同前)
※週刊ポスト2016年7月22・29日号