都内で爆発的に流行っているメニューがある。牛肉とウニのコラボだ。意外な取り合わせがなぜそんなにマッチするのか。食文化に詳しい編集ライターの松浦達也氏が解説する。
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いまだ続く肉ブームのなか、「乗せれば(巻けば)いいと思ってるんだろ!」。そうぼやきたくなるような、”ずるい”組み合わせのメニューが東京で大流行している。
そのメニューは「ウニの牛肉巻き」だ。世に送り出したのは、勝どき橋のたもとにある立ち呑みの名店「かねます」の主人。この品を考案したのは1990年ごろだったという。
「十年くらい前かな、ウニだけ売っていても面白くねえな、と思ってね(中略)。桜肉なども試したけど、やっぱり適度に霜が入った牛のロースがいい。これをやや厚めに切って、適当に身が締まったウニに巻くのが一番旨いんだ。本当にいいものが揃うのは年に数回くらいしかないけどね」(週刊文春2000年6月1日号)
もともとこのメニューは「肉ありき」ではなく、「ウニありき」だった。むっちりした食感の牛肉を噛みしめると、肉の間から濃厚で甘いウニがあふれ、口内がうま味でいっぱいになる。ウニは具でありながらソースでもある。前出の「ウニだけ売っていても面白くねえ」というコメントを引き合いに出すまでもなく、どこに出しても主役を張れるウニをソースとしても扱うのだから贅沢極まりない。
つい数年前まで、この品は「かねます」の専売特許のような位置づけのメニューで、他の店で見かけることはあまりなかった。ところが最近の肉ブームで他店との差別化を目指してか、この「牛肉×ウニ」を取り入れる店が、東京で増えている。焼肉店では薄切りにしたロースを炙り、ウニを乗せて巻いていく。寿司屋では肉で巻いた軍艦巻きがバーナー炙られる。ほかにもあちらこちらで「牛肉×ウニ」という組み合わせを見かけるようになった。
なぜこれほど誰もが彼もが「肉×ウニ」に惹かれるのか――。
実はウニのうま味成分は、非常に豊富かつ複雑なのだ。昆布だしや玉ねぎのうま味として知られるグルタミン酸、かつお節のうま味成分のイノシン酸、さらにはきのこのうま味成分でもあるグアニル酸まで含まれている。他にも、成分自体にうま味のあるアラニンはグルタミン酸との掛け合わせでうま味を増強する。メチオニンはうま味の決め手にもなりうる苦味成分をつかさどり、バリンは甘味と苦味で味わいに深みをもたらす。
うま味、甘味、苦味、まろやかさなどを演出する成分てんこ盛り。ウニはもはや天然のうま味調味料! そう言ってもいいほど、その身には豊富で複雑なうま味が含まれている。
そんなうま味爆弾を、牛肉に合わせるのだから、誰もがとりこになって然るべし。そのうま味、食べ手はもちろん、作り手さえも魅了する。そういえば近年ではウニを使ったパスタなど素材としてのウニを活用するメニューもずいぶんと増えた。成分が似ていて相性がいいとされる卵と組み合わせた料理も多い。
知るほどに、ウニのうま味は深くなる。そのうま味、もはや禁断と言ってもいいほどである。