尖閣諸島の領有権を主張してきた中国が、いよいよ軍艦まで使って日本の海に触手を伸ばし始めた。日本の国防は待ったなしだ。しかし同盟国のアメリカは、かつてのように全面的に頼れる相手ではなくなっている。今後、我が国の国防のあり方はどうあるべきか。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が基本戦略を論じる。
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多様性を許容してきた国際社会で、いま、内向きの価値観、「自国第一主義」が強まる傾向にあります。アメリカはドナルド・トランプ氏が「アメリカ第一主義」を掲げ、排他的な暴言を繰り返して支持を集め、共和党の大統領候補に上り詰めました。
用いる言葉や表現の仕方は違うにせよ、彼の主張は「アメリカは世界の警察ではない」「アメリカ兵を家族の元に戻す」と国民に訴えてきたオバマ大統領や、社会主義的な福祉最優先を訴えて善戦した民主党のバーニー・サンダース氏の主張と、アメリカの国益を最優先し、他国の問題にはなるべく介入したくないという点で共通しています。
ヒラリー・クリントン氏を含め、誰が大統領になったとしても、内向きのナショナリズムを支持するアメリカ世論の力を無視することは難しいでしょう。同様の空気は、ヨーロッパにも漂っています。
イギリスでは国民投票によってEUからの離脱が決まり、フランスでは反EUと移民排除を掲げる国民戦線のマリーヌ・ル・ペン氏が支持を集め、来年の大統領選挙の最有力候補となっています。
これらは世界にとっても日本にとっても、由々しき事態です。
しかし、私たちに「アメリカ第一主義」のトランプ氏をはじめ、内向きになる国々を批判する資格はあるのでしょうか。日本人はいま一度自らを省みる必要があります。
杏林大学名誉教授で公益財団法人・国家基本問題研究所副理事長の田久保忠衛氏は「日本こそが自国第一主義の典型」だと指摘しています。私も同感です。
日本は経済最優先で自らが豊かになることを追い求め、GDP世界第3位の大国でありながら国際紛争の解決に積極的に関与しようとしませんでした。現在も国際社会への貢献は限られていますし、日本の国土の防衛にさえも、アメリカの軍事力を当てにしています。日本こそが「自国第一主義」であり、果たすべき責任を果たしてこなかった国だと言われても仕方がありません。アメリカやヨーロッパの自国第一主義を憂う前に、日本こそ開かれた普通の国にならなければなりません。
※SAPIO2016年8月号