コンサートに招待しても、第一声は「行きたくない」という。来てくれても客席で黙って下を向いている。僕が歌詞を間違えないか心配だったそうだ。紅白歌合戦の出場歌手発表の季節にはお百度参りをしてくれた。おかげで、兄弟揃って9回も出場できた。それでいて、「うちだけで2人分も出場枠を取って申し訳ない」と頭を下げるような人だった。
母も歌が好きでカラオケにもよく行った。兄貴の『兄弟船』と『海の匂いのお母さん』は歌ったが、歌謡曲が多い僕の歌は嫌いだったそうだ。それでも僕の『しぐれ川』を歌ったと聞いた時は涙が止まらなかった。
母は認知症にかかり、3年ほどして僕たち兄弟のこともわからなくなったが、親父のことだけはわかった。あんなに苦労させられても、親父のことを慕っていたのだろう。親父も罪滅ぼしだと最後まで介護をしてくれた。
デビュー35周年を迎え、7月20日に記念アルバムを出すが、おふくろのことを歌った曲も入れることができた。天国で聴いてほしい。
●やまかわ・ゆたか/三重県生まれ。1981年に『函館本線』でデビューし、新人賞を総なめ。7月20日に「35周年記念ベストアルバム」が発売。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号