なぜ歯医者絡みのトラブルや疑問がこんなに多いのか。背景には、「患者のためになる治療はカネにならない」という構造的欠陥がある。ジャーナリスト・岩澤倫彦氏が歯科業界の問題の元凶にして、最大のタブーである「値段」に斬り込む。ここでは「インプラント」の価格についてレポートする
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5月下旬、右側の奥歯に痛みを覚えた筆者は首都圏の歯科を訪ねた。そこで笑顔で応対した歯科医は、痛みのある歯への言及もそこそこに、別の「痛くない歯」の話を始めたのである。
「それとね、左下の奥歯2本、これは抜歯しないとダメですね。破折(ひび割れ)しているようですし、根尖病巣(※注:歯根の先に膿が溜まっている状態)があるので、早く抜いたほうがいいです。驚きましたか?」
痛くもない歯をいきなり「抜く」といわれたのである。この歯科は予防歯科(※注:虫歯や歯周病を未然に防ぎ、口腔内を健康に保つための診療科)が売りで、歯を極力抜かずに残す治療を受けられるとHPで宣伝していた。
2本抜歯した後は、どういう治療になるのか聞くと、「インプラントがベストだと思います。詳しいご説明は後ほど」といわれた。
問診票の「悪いところは全部治したい」「自費治療も含めた最善の治療を受けたい」にチェックを入れたからだろうか。そこで取材も兼ねて都内の格安インプラント(人工歯根)クリニックを訪ねてみた。
「頑張って残しても将来性があんまりない。第一選択は高価ですが非常に信頼できるS社のインプラントでやりたい。手術代もコミコミで80万円弱です」
このクリニックのHPには、「インプラント本体は約21万円、アバットメント(※インプラントと上部構造〈義歯〉のつなぎ目の支台)約5万円、上部構造(義歯)約8万円、合計約34万円」という価格が掲載されている。
2つ合わせても70万のはずだと指摘すると、「抜歯の費用が約7万円です。静脈麻酔をやるので、保険の抜歯ではダメなんですよ」と告げられた。
約34万円は、義歯が銀歯(金銀パラジウム合金)の価格で、セラミックタイプだと合計約39万円になる。