スポーツ

PL野球部史上最長在籍部員 黒土にうずくまり嗚咽漏らした

PL学園野球部の最後の夏が終わった

 甲子園制覇7回、春夏通算96勝を誇るPL学園野球部が“廃部”に追い込まれた。12人の3年生の中に、かつて当たり前だった特待生はいない。いわば普通の高校生である彼らはこの1年、「超強豪校の最後の部員」の看板を背負う重圧と戦い続けてきた。PLに起きた異変を2年にわたって追いかけてきたノンフィクションライター・柳川悠二氏が、「最後の夏」への軌跡をレポートする(文中敬称略)。

 * * *
 夏の大阪大会初戦で東大阪大柏原に敗れた瞬間――即ち1956年創部のPL学園野球部が60年の歴史に幕を閉じた瞬間から、すでに15分が経過していた。

 試合後、ベンチ前で真っ先に報道陣に囲まれた3年生の記録員・土井塁人の周りには、もう誰もいなくなっていた。労いの言葉をかけようと近づくと、土井の方が先に口を開いた。

「史上最弱と言われながらも、選手達は精一杯戦ってくれました」

 他のナインより1歳上の土井は1年時に血液のがんの一種である「急性リンパ性白血病」を患い、およそ半年間、入院生活を送った。

 医師からは骨髄移植を勧められたが抗がん剤治療を選択。学園の「退部して勉強に専念するなら進級は可能」という提案も拒否し、留年を決めた。大好きな野球を続けるためである。

 最上級生となり、規定によって公式戦に出場することはできないが、今ではPL史上、最も長い時間をグラウンドで過ごした部員となった。普段の練習ではコーチのような存在でもあり、試合中は記録員を務めながら野球経験のない監督を助ける参謀的役割を担った。

「勝たせてあげることができなくて申し訳ないです」

 その時である。往年の高校野球ファンなら誰もがそらで歌えるPL学園校歌がスタンドから聴こえてくる。

〈ああ PL PL〉〈永遠の学園 永遠の学園〉

 土井は黒土にうずくまって嗚咽を漏らし、しばらくして次の言葉を絞り出した。

「せめて一回だけでも……一回でいいから、仲間と校歌を歌いたかった」

関連記事

トピックス

第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
金メダル級の演技(C)NHK連続テレビ小説「あんぱん」NHK総合 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
朝ドラ『あんぱん』で“韋駄天おのぶ”を演じる今田美桜の俊足秘話 「元陸上部で中学校の運動会ではリレーの選手に」、ヒロイン選考オーディションでは「走りのテスト」も
週刊ポスト
(撮影/田中麻以)
【高市早苗氏独占インタビュー】今だから明かせる自民党総裁選挙の裏側「ある派閥では決選投票で『男に入れろ』という指令が出ていたと聞いた」
週刊ポスト
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《ベイビーが誕生した大谷翔平・真美子さんの“癒しの場所”が…》ハワイの25億円リゾート別荘が早くも“観光地化”する危機
NEWSポストセブン
戸郷翔征の不調の原因は?(時事通信フォト)
巨人・戸郷翔征がまさかの二軍落ち、大乱調の原因はどこにあるのか?「大瀬良式カットボール習得」「投球テンポの変化」の影響を指摘する声も
週刊ポスト
公然わいせつで摘発された大阪のストリップ「東洋ショー劇場」が営業再開(右・Instagramより)
《大阪万博・浄化作戦の裏で…》摘発されたストリップ「天満東洋ショー劇場」が“はいてないように見えるパンツ”で対策 地元は「ストリップは芸術。『劇場を守る会』結成」
NEWSポストセブン
なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
沢尻エリカ、安達祐実、鈴木保奈美、そして広末涼子…いろいろなことがあっても、なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
女性セブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン