国防、経済、思想。日本の戦後は、アメリカとともにあった。いまアメリカが自国優先主義に舵を切ろうとしていることに、保守陣営にも動揺が走っている。だが逆にいえばアメリカの価値観から脱却し、我々が本来持つ精神を取り戻す絶好の機会とも言えよう。社会思想家の佐伯啓思氏が解説する。
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共和党候補のトランプ氏は、「在日米軍の駐留費を日本が負担しなければ、米軍を撤退させる」と発言している。どこまで本気なのかは不明だが、彼が一貫して主張しているのは、「アメリカの得にならないことはもうしない」という、むき出しの「アメリカ中心主義」である。
日本や韓国を守る義務はない、TPPにも参加しないとぶち上げているが、それをアメリカの大衆が支持している現実を、我々は直視する必要がある。
日本の戦後保守は、日米同盟さえ維持すれば日本の安全は保障される、アメリカ型の新自由主義を模倣していれば恩恵を享受できると信じてきたが、そういう時代は、終わりつつある。
もちろん、大統領選でヒラリー氏が勝つ可能性も十分あるが、世界を見渡せば、トランプ的な自国最優先、一国中心主義が席巻しているのもまた事実だ。冷戦以降の世界では、市場経済と民主主義、自由と権利、法治主義などを共通原理とするグローバル世界が理想とされてきたが、グローバル化が進むほど、現実には資源や資本、市場を巡って国家間競争が起き、貧富格差も拡大した。そうした矛盾が看過できなくなるほど増大したのが今の世界だ。
安倍首相は日米同盟の基礎は「価値観の共有」にあるという。しかし、そもそも市場競争の経済や民主主義、基本的人権といった価値観は、日本人が昔から持っていたものではない。貸衣装に過ぎないアメリカの価値観に無理やり袖を通して、着飾ってきたといった方がよい。
「価値」とは、それに対する侵害や破壊から命を賭しても守らねばならないものである。確かに欧米における今日の反イスラムの風潮は、自由や民主主義という価値をイスラム過激派の攻撃から断固として守るという意志の現われで、そこから彼らのナショナリズムが生まれる。ところが、日本には、借りてきた「価値」しかないので、本当の意味のナショナリズムさえも成立しなかった。
では我々はどこに向かえばよいか。トランプ大統領誕生で、在日米軍が撤退、または縮小されれば、中国と北朝鮮が挑発行為を仕掛けてきても不思議ではない。