『ナカイの窓』(日本テレビ系)、『橋下×羽鳥の番組』(テレビ朝日系)、そしていつの間にか『バイキング』(フジテレビ系)まで。『バイキング』には先日、都知事選の主要3候補が出演、激論を戦わせ高視聴率を記録した。このところ、表向きの看板はバラエティーでありつつも、中身は討論番組の形式をとっている番組が少なくない。なぜ今、そのような番組が増えているのか。
元テレビプロデューサーで上智大学教授(メディア論)の碓井広義さんはこう分析する。
「単純に視聴率が取れているからこの手の番組が増えているわけですが、なぜ人気なのかというと、それが“見るまとめサイト”のようなものだからだと思います。インターネットのまとめサイトが人気になっている最大の理由は、いろんな意見を手っ取り早く知ることができる点にありますが、テレビの討論番組も同じ理由で人気になっていると考えられます。
政治、経済、国際問題といった真面目な話題から、芸能人の不倫騒動まで。関心はあるけれど自分で調べるのは面倒だという人にとっては、テレビのスイッチを入れるだけで文化人やタレントの意見を知ることができるので、ニュースサイトやまとめサイトを見るよりもお手軽なのでしょう」(碓井広義さん・以下「」内同)
手軽さがあるのは観る側だけではない。作り手にとっても、討論形式の番組はお手軽なのだという。
「討論番組を一本収録するよりも、ドキュメンタリー番組を一本作るほうが、時間、費用、手間がかかります。ドキュメンタリーでは入念に準備をし、取材をした後も編集などがありますが、乱暴な言い方をすれば、討論番組は人さえ揃えられれば何とかなる。文化人なら出演料も安く済みます。ただ、最近の新しい討論番組を観ていると、雛壇芸人を揃えたバラエティー番組が乱立していた時の番組作りに近いものを感じます。本来重いテーマである、事件や事故を扱っている時でさえそう。バラエティーの手法を討論番組に適用しているのでしょうね」
バラエティーの手法を取り入れることで、従来の本格的な討論番組よりも見やすさはあるかもしれない。しかし本格的な議論に期待する視聴者には、物足りなく映らないだろうか。
「テレビを通じて問題の本質を知りたい、知見を得たいという視聴者は減っていると思います。それよりも最近の視聴者が求めているのは、ツイッターなどで『あのタレントがこんなことを言っていた』とつぶやけるようなネタです。特に生放送の討論番組では、誰かが失言しないか期待しているところもあります。作り手側もハプニングがマイナスだとは思っておらず、ネットで話題になればそれでいいのです」
議論の深まりよりも、ネタになるかどうか。そんな制作スタイルが主流になりつつあるが、それが今後も続くかというと、微妙なところのようだ。
「ひな壇芸人を集めただけのバラエティー番組が飽きられているように、単にエンタメ化しているだけの番組は飽きられやすいと思います。昔から続く正統派のかっちりした討論番組のように、やはり中身が濃くないといけません。
私が個人的に面白いと思うのは、『ワイドナショー』(フジテレビ系)です。討論番組と銘打っているわけではありませんが、松本人志さんを中心とした井戸端会議の中でいろんな人の意見が出てくる。松本さんが何を言うのか、どんな表情をするのか。注目して観ている人も多いと思います。『橋下×羽鳥の番組』もいいですね。橋下さんの遠慮がない切り返しが大きな見どころになっていて、それを羽鳥さんが下支えしている安心感があります。かつて勢いがあった頃の『TVタックル』(テレビ朝日系)のように、素人のタレントが専門家に本音をぶつけて、専門家がタジタジになるような討論番組が増えてくると面白いと思います」
現在の新興番組の中に、10年後“老舗討論番組”の仲間入りをしている番組はあるだろうか。