桐谷美玲演じるパティシエをめぐる恋模様を描く月9『好きな人がいること』(フジテレビ系)、武井咲演じるティファニーに勤めるヒロインが、副社長(滝沢秀明)に恋に落ちていく『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)。この2作に、最近の恋愛ドラマの傾向が見て取れるという。テレビ解説者の木村隆志さんがズバリ解説する。
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数年前まで恋愛ドラマは激減していましたが、このところ毎クール2~3本が放送されるなど復活の兆しを見せています。今夏も月曜21時に『好きな人がいること』、火曜22時に『せいせいするほど、愛してる』が放送されていますが、ともに少女漫画風の脚本・演出が強調されていることに驚きました。
そう感じた理由は、「胸キュンアクション」「甘いセリフ」「ツンデレと王子のWキャスト」「男の肉体美」の4点セット。これらには、ターゲットを女性に定め、「思わずツイートしたくなる」シーンを増やして、リアルタイム視聴をうながそう、という制作サイドの狙いがあります。
たとえば、『せいせいするほど、愛してる』の「風邪なんて俺にうつせ」というセリフからのキス、靴が壊れたときお姫様抱っこでブランド靴店に連れて行くシーンでは、ツイッターが盛り上がっていました。『好きな人がいること』にもこのようなシーンが多いのですが、視聴率はともに「2ケタに届くか届かないか」であり、制作サイドの狙い通りとはいきません。
そもそも「思わずツイートしたくなる」4点セットは、胸キュンする人もいれば、冷めてしまう人や爆笑してしまう人もいるなど、決して万人が求めるものではありません。むしろ、4点セットをパッチワークのように組み合わせている分、「物語を追い、キャラクターに感情移入する楽しみが損なわれる」リスクが高く、「毎週見る」連ドラの必要性は薄いのです。
実際、ここ1年半くらいの間に、『アオハライド』『ストロボ・エッジ』『ヒロイン失格』『Orange』『黒崎くんの言いなりになんてならない』などの少女漫画原作映画が立て続けにヒットしました。いずれも上記4点セットの多くを含む作品であり、“単発映画”の成功に“連ドラ”が影響を受けているのは明白です。
思えば、一年前の夏に放送された恋愛ドラマ『恋仲』(フジテレビ系)も、『ストロボ・エッジ』の福士蒼汰さんと『アオハライド』の本田翼さんを起用し、4点セットをふんだんに盛り込むなど、少女漫画原作映画のインスパイア作品でした。一年後の今、「女性をターゲットに絞って、4点セットを前面に出す」傾向がエスカレートしているのが気がかりです。
もともと恋愛ドラマは、1980年代後半から1990年代にかけてドラマシーンのど真ん中に君臨し、男性も楽しめる作品が放送されていました。なかには「ドジで一生懸命なヒロイン」「クールで男らしいヒーロー」などの漫画的なキャラクターも多かったのですが、男女ともに2人を応援できる脚本・演出が施されていたので、人気作となりえたのです。
現在の視聴者に、「ヒロインやヒーローを客観的に応援するより、自分に置き換えて主体的に見たい」という人が増えているのは間違いありません。しかし、それでも「私がキュンキュンしたい」という主体的な人ばかりではないのが事実。
3月まで放送されていた『ダメな私に恋してください』(TBS系)が、まさに今期と同じ4点セットを備えた少女漫画原作の作品だった一方、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)は、ヒロインとヒーローを応援するタイプの作品でした。真逆の作風にも関わらず、平均視聴率が9%台と五分だったのは、「視聴者が少女漫画原作や4点セットばかりを求めているわけではない」ことの証ではないでしょうか。
もし現在の視聴者が、「私がキュンキュンしたい」主体的な人と、「ヒロインやヒーローを応援したい」客観的な人に二分されているとしたら……現在放送されている2作は、ヒロインやヒーローを応援したくなる要素を加えることで、より多くの人に見てもらえるかもしれません。
個人的には、「日本中の人々が毎週無料で見られる」テレビドラマだからこそ、制作サイドが少女漫画原作映画の成功に捕らわれることなく、男女ともに楽しめる作品に回帰することを願っています。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。