フィリピンでは1992年までに米軍基地が完全撤退した。しかし、中国との領有権問題やローカル経済の低迷などから米軍駐留時代を懐かしむ声も聞こえる。在フィリピン12年のノンフィクションライター・水谷竹秀氏が現地ルポをお届けする。
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クラーク基地跡は米軍撤退後、民間転用され、国際空港やゴルフ場、ホテル、カジノ、動物園などのレジャー施設が充実し、国内外から企業が進出する経済特区へ様変わりした。一部は比空軍基地としても使用されている。基地跡周辺の住民たちは、現在のこの姿こそが撤退の「成功」を物語っているかのように口を揃える。
しかし、あれから四半世紀近くが経過した今も尚、国内のそこかしこには米軍の影がちらついている。撤退とは名ばかりで、有名無実化されているのがその実態ではないのか。国防に関しても、自主防衛にはほど遠い状況だろう。
私が基地跡を訪れた6月上旬、スービック湾の周辺海域では比米合同軍事演習が5日間行われ、双方合わせて約1400人が参加した。演習の表向きの理由は「両国関係の強化」だが、この背景には、南シナ海南沙諸島の領有権をめぐって実効支配を強める中国をけん制する狙いがあった。
フィリピンでは1999年に訪問米軍地位協定(VFA)が批准されたのを契機に、両軍による軍事演習が毎年、実施されてきた。物理的に基地がなくなったとはいえ、米軍は未だに比国内で駐留を繰り返しているのが現状で、南部のミンダナオ地方ではイスラム武装勢力に対する比国軍の作戦に米兵が参加していたとする証言まである。
反体制派の一人は私の取材に対し、「撤退前から状況は何も変わっていない」と言い切る。