【著者に訊け】山口敬之氏/『総理』/幻冬舎/1600円+税
取材対象、中でも特定の政治家と親し過ぎる記者は、山口敬之氏の古巣・TBSでは、暗に疎まれたという。
「たぶん現政権にそこまで食い込んだ前例がないから、嫌われたというより、扱いに困ったんだと思います。僕が外務省担当やワシントンに異動になったのも安倍首相就任と再任のタイミングでした。他社が官邸になるべく近い記者を集めるのと比べると、相当独特です」
しかしどんなスクープも対象に肉薄しなければ取れるはずはない。企業ジャーナリスト特有のジレンマに苦しんできた氏が退社後、改めて世に問うのが、安倍晋三首相及び内閣の実像に迫る初著書『総理』である。
安倍の体調不良を理由に突然幕を閉じた第1次政権(2006年9月~2007年9月)と、第2次政権(2012年12月~)の〈本気度〉の違いには、戸惑う有権者も少なくない。では何が彼を変えたのか、本書は官邸中枢と近いからこそ知り得た「ファクトだけ」を綴り、早くも話題を集めている。国民にとって真の判断材料は、政権の「真の姿」にあると信じて。
「予め言っておきたいのは、僕は本の内容は出版されるまで誰にも伝えていないし、ゲラを見せてもいない。たぶん本が出て一番驚いたのは安倍さんたちで、現に『そこまで書くか!』って、今や軽い緊張感すら生まれている。それで壊れる関係なら諦めるしかないし、今後も書くべきはとことん書く所存です」
元TBSの山口氏といえば、ワシントン支局時代にベトナム戦争当時の韓国軍慰安所に関する米公文書の存在を発掘し、某誌でスクープした、あの山口氏だ。この一件を報じないとした局側の方針に反し、他媒体への寄稿を選んだ氏は支局長を解任されるが、それも「取材事実は全て公表するべき」という信念ゆえか。