長い間、闘病生活を続けていた永六輔さん(享年83)、大橋巨泉さん(享年82)の訃報が続き、改めて「死に方」に関心を抱く高齢者が増えているという。東大病院の救急現場で長年、「命」と向き合ってきた矢作直樹・東大名誉教授は、不安を払拭するためには死生観の転換が必要だと説く。
「そもそも、死に方に上下をつけたがるのは、私たちの悪い癖です。死に上下などありません。病院や自宅で大勢に見守られて死んでも、部屋でひとり死んでも同じです。死は帰郷とも呼ばれるように、肉体が死んでも魂は滅びないと考えてみてはいかがでしょうか」(矢作氏。以下「」内同)
矢作氏は新著『ひとりを怖れない』の中で、死は「現世からの卒業」に過ぎないと位置づけ、自分自身だけでなく、親しい人の死に際した時の心の持ち方なども教示している。独居率が年々高まっているため、今後は看取りのスタイルが大きく変化することも予想している。
「長生きした人がご長寿と称えられる一方、早世した人はかわいそうだと言われます。本当にそうでしょうか? 皆さんはよく平均寿命を気にしますが、私は寿命とは、この世でのお役目を果たす時間だと考えています。生きた時間の長さではなく、その人生をどう生きたが大切だと思います」
厚労省が日本人の平均寿命が男性80.79歳、女性87.05歳で過去最高を更新したと発表したばかりだが、平均寿命とは言い換えれば「0歳時における平均余命」。永さんや大橋さんの訃報の際にも、ネット上では日本人男性の平均寿命と比較して論評する記述が見受けられた。この寿命や余命を気にして生きることが、逆に大きなストレスの要因になりかねないと矢作氏は指摘する。
「早くに亡くなったとしても、どんな亡くなり方をしても、人はみんなお役目を果たしているはずです。寿命も余命もあきらめ、年齢も気にするのはやめましょう。あきらめることで執着が断たれ、随分と楽になります。年齢への執着がなくなると、気持ちが若返ります。年齢をあきらめた人に若々しくて素敵な人が多いのは、気持ちが若返ると細胞が活性化され、雰囲気も若返るからだと思います」
◆矢作直樹(やはぎ・なおき):1956年、神奈川県生まれ。東京大学名誉教授。金沢大学医学部卒業。2001年から、東京大学大学院医学系研究科救急医学分野教授および医学部附属病院救急部・集中治療部部長となり、約15年間、東大病院の総合救急診療体制の確立に尽力する。著書に30万部突破の『おかげさまで生きる』(幻冬舎)ほか、『人は死なない』(バジリコ)、『悩まない』(ダイヤモンド社)、『天皇』(扶桑社)、『ひとりを怖れない』(小学館)など。