2630人の村民のうち35%が高齢者という秋田県東成瀬村。自然豊かなこの村にはスーパーがなく、コンビニが1軒あるだけ。しかし今、この村を訪問する学校関係者が後を絶たない。国内はもちろん、海外からも頻繁に視察団が訪れる。それは、この村が日本トップクラスの学力を叩き出しているからだ。そんな噂の村に、記者が飛んだ。
東成瀬小学校は全校児童100人。各学年1クラスずつで、教職員数は16人だ。すべての学年の授業を見学して、記者は気づいたことがあった。
まず子供たちの机の上にふでばこがない。聞くと、毎回先生が必要なものを授業の前に伝え、必要なもの以外は机の上に出さないそう。近藤幸一校長がその理由を教えてくれた。
「だいたい鉛筆と消しゴム、赤ペン・青ペン、定規です。時にはコンパスなどもあります。なぜふでばこを出さないか? それはより集中力を高めるためです。45分の授業を有効にするために、ふでばこがあると、例えば、ふでばこの絵柄を見たり、出したりしまったりしますから」
また、消しゴムは全員白。これは決まりではないが、消しゴムはキャラクターものだったり、においがついていたりするとやはり授業の集中力の妨げになるので白い消しゴムを使うよう、保護者にお願いしているという。保護者へのお願いはそれだけではない。
「書く時は鉛筆を使ってもらいます。高学年ではHBでもよいのですが、低学年は2BもしくはBの鉛筆をお願いしています。しっかりとした濃い字で書けるようにということです」(藤原寿教頭)
実は今回記者が驚いたことのひとつが、子供たちがみんなキレイな字を書くことだった。近藤校長は今年から東成瀬小学校に赴任したが、やはりこの点に驚いたという。
「子供は素直なのでいやいや勉強していたり、いやいや作文を書いていると字はどうしても乱れがちです。でもここの子供はそういうことは一切ありません。それはどの子供も自主的に主体性を持って勉強に取り組んでいるからです」(近藤校長)
遊び盛りの子供たちに、自主的に主体性を持って、勉強に取り組ませることは、実はいちばん難しいことかもしれない。それを同校が実現できているのは、校内のいたるところにある「掲示物」によるところも大きい。
例えば校内の階段の壁一面に掲示されている「なるせっこ算数ノート展 校長先生のイチオシ」。これは児童が授業中に書いたノートの中で創意工夫しているものを選んでいる。
選ばれたノートには児童の名前と顔写真が貼られ、その児童からのPRコメントなどが書かれているほか、校長先生がイチオシにした理由などが書かれている。このノート展は学期ごとに変えられ、教頭先生のイチオシコーナーもある。
「どの子供も本当にしっかりとした字でノートをとっていて、選ぶのが大変です。なぜノートを掲示しているのかってよく聞かれるんですが、児童たちは貼り出されることで認められたと思えるんです。同時にクラスメートのノートを見て、ヒントにしたりしています。
低学年の子供たちにとっては、高学年の子供のノートを見て真似したりして刺激になるんです。ただ授業中にノートをとりました、というだけで終わるのではなく、その授業をより定着させるためにも、認めてあげることは大切だと思います。子供たちに自己存在感を与えることはとても大切。他の人に代わることがない、かけがえのない存在であることを意識することで、子供たちはどんどん輝いていきます」(近藤校長)
学校では年に6回ほど授業参観を行っている。
保護者はもちろん、祖父母や親戚らも出席するので、参観率は120%になるという。
「そうしたときに自分の子供のノートや作文を見つけると、うれしそうな顔をされますし、また同じクラスの子供たちのノートなどを見ることで保護者のかたなりに自分の子供と接する時などのヒントになっていることもあるようです。そういった両面の意味で掲示をしています」(近藤校長)
※女性セブン2016年8月11日号