本来、内閣改造は、人事権を一手に握る総理大臣がポスト配分を武器に求心力を高めるチャンスのはずだが、今回は少し様相が違っている。思わぬ“誤算”に安倍晋三・首相が直面し、並行して党内では激しい暗闘が繰り広げられていた──。
7月31日に投開票された東京都知事選であれほどヒートアップしていたはずなのに、終わると同時に永田町のセンセイ方の関心は内閣改造一色となった。
安倍首相にとって、今回の組閣は「憲法改正準備内閣」の性格を持ち、次の総選挙をにらんだ布陣でもある。総選挙に勝って「総裁任期延長」に持ち込み、2020年の東京五輪を首相で迎え、憲法改正も実現するのが安倍首相の野望だ。
内閣改造はそうした安倍政治の総仕上げに向けた重要な人事になる。それだけに、じっくり構想を練るため、安倍首相は7月に早めの夏休みを1週間も取った。
ところが、大誤算だったのは留任を想定していた谷垣禎一・幹事長が趣味のサイクリング中に転倒、頸髄を損傷したことだ。それによって人事の大幅な練り直しを迫られることになった。
谷垣氏が入院したのは7月16日。当初は「大けがではないが、大事を取った」(幹事長室)と発表され、静養先の山梨県鳴沢村の別荘で報告を受けた安倍首相も、「雲隠れしてどこかに遊びにでも行ったんじゃないか」と周辺にジョークを飛ばしていた。
それがいつまで経っても病状についての情報が入らない。幹事長室を預かる谷垣側近の棚橋泰文・幹事長代理は正確な病状を伏せ、報告しなかったとみられている。
しびれをきらした首相が、「本当はどうなのか」と怒り出した。慌てた細田博之・幹事長代行が谷垣氏から説明を聞きたいと求め、病室に付き添っている谷垣氏の実弟を通じて「頸髄損傷で手術した」という重大な説明があったことを会見で明らかにした。
党内は幹事長交代の見方が強まり、大幅内閣改造の可能性が出てきたことに、にわかに沸き立った。いささか不謹慎ながら、党内では入閣適齢期の待望組が70人近くに膨れあがり、他人を押しのけても「今度こそは」と目の色を変えているのだ。