2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載 「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、古代ローマ時代の風刺詩人・ユウェナーリスの「健全なる精神が健全なる身体に宿ることを願う」という言葉の意味を紹介する。
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今から14年前、ローマ教皇庁からの招待で、バチカン市国でのローマ教皇庁医療司牧評議会の国際会議に出席しました。会議は3日間で約80か国から800人位が参加します。実質的には、会議というよりも、医療に従事するカトリック宗教者の勉強会で、その年のテーマに関連して30人位の各専門家が講演します。
この年のテーマは「カトリック医療施設の独自性」でした。初めて宗教間対話の時間が設けられ、他の世界宗教からも一人ずつ招待されたのでした。勿論、私は仏教の立場を話しました。有難いことに、その後も招待され、計4回もバチカンで仏教の立場を講演させて頂きました。
日常の診療で休みなく働いていた状況でのバチカン訪問でしたので何の予備知識もなく、当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世がどんな偉大な人かも全く知らずに握手してしまいました。サンピエトロ大聖堂の大きさにも圧倒されました。
ローマに30年も住んでいる日本人の神父さんに案内していただきましたが、バチカンの公用語はラテン語だそうです。そして、古代ローマの時代からラテン語を使い続けているのはバチカンだけなのだそうです。
私は医学部の学生時代にラテン語の授業を受けました。さらに解剖用語はラテン語なので、ラテン語の単語は沢山知っています。しかし文として覚えているのは今では一つだけです。古代ローマの詩人ユウェナーリスの風刺集『サトゥラエ』にある「健全なる精神が健全なる身体に宿ることを願う」という有名な言葉です。サンピエトロ大聖堂には、このラテン語の祈りの言葉「orandum est ut sit mens sana in corpore sano」でお参りしました。