日本にとって悩ましい国際関係と言えば、大陸、とりわけ中国との関係だろう。新刊『世界史としての日本史』(小学館新書)で初対談した半藤一利氏と出口治明氏が、南シナ海での領有権問題など、中国がなぜ、外へ向かって攻撃的になっているのかについて語りあった。
半藤:日本にとってもう一つの問題は、やはり中国の存在ですね。中国は、南シナ海での領有権問題に関する国際仲裁裁判で敗訴したが、従おうとしない。国際法上では、岩と岩礁と島は明確に区別されていて、中国の外務省も領土にならないのは当然わかっているんですが、軍部は承知しながらごり押しをしている。習近平主席はそれをどこまでコントロールしているのか気になります。
出口:僕がある中国専門家から伺った話では、中国が南シナ海で突っ張っているのは、「中国は今が力のピークだと認識しているから」だというのです。中国は日本に次いで少子高齢化が進んでいますが、対する米国は人口が増え続け、昨年はシェールオイルで世界一の産油国になり、力の差は広がる一方。だから、今のうちに既成事実を作ろうとしていると。
半藤:国際海洋法上で問題があっても、実効支配を続ければ、いずれ既成事実になるということですね。
出口:そう考えている。また中国の長い歴史を見れば、外に向かって領土を取りに行くことはあまりしない国ですね。
半藤:昔は周辺国からの朝貢貿易が主で、従うなら存在を認めてやるという鷹揚とした国でしたからね。
出口:外に向かうより、北方から遊牧民が侵入してきて支配されるんですが、遊牧民を消化して中国に同化させていく。北魏や隋、唐、モンゴル(元)、清など、中国王朝の半分くらいは遊牧民が創った国です。中国が外に向かったのは、地続きのベトナムや朝鮮が中心でした。
半藤:これを言うと、ベトナム人や韓国人は怒りますけど、もともと中国だと。
出口:だから、単純な膨張主義とはちょっと違うと思います。トウ小平が言ったように領土の問題は、これまでは殴り合わないと解決しなかったので、知恵がつくまで時間の経過を待つと。
●でぐち・はるあき/1948年、三重県生まれ。京都大学法学部を卒業後、日本生命に入社。現在はライフネット生命保険代表取締役会長兼CEO。著書は『「全世界史」講義』I、II『生命保険入門 新版』『直球勝負の会社』など多数。
●はんどう・かずとし/1930年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。文藝春秋に入社し、「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などを経て作家に。著書に『日本のいちばん長い日』『ノモンハンの夏』『昭和史』『日露戦争史』シリーズなど多数。
※週刊ポスト2016年8月12日号