唯一無二の存在として、孤高のお立場で重責を果たされる天皇陛下。その静かで孤独な闘いを文芸評論家の富岡幸一郎氏が解説する。
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天皇陛下が、天皇の位を生前に皇太子に譲る「生前退位」のご意向を示されているという衝撃的なニュースが飛び込んできた。
実はこのお考えは、数年前より周囲に繰り返し語られていたとの報道もある。平成二十二年末に喜寿を迎えられた天皇は、公務や宮中祭祀を精力的に励まれてきたが、平成二十三年二月中旬に東大病院に検査入院され、冠動脈狭窄症との病名が伝えられた(翌年二月に心臓のバイパス手術を受けられる)。その前後から、皇太子、秋篠宮と三人で話をする機会をしばしば作られるようになったという。そこで公務に関する事とともに、将来の皇室について重大な決意が語られたとしても不思議ではない。
平成二十三年二月二十一日の皇太子の誕生日記者会見での発言には、次のようなくだりがあった。
《皇太子として両陛下をお助けしなければならないと考えておりますが、両陛下のご公務のあり方については、宮内庁内部でも検討がなされているように、ご公務の内容を考慮することによって、両陛下に過度の負担がかからないようにとの配慮が重要であると思います。しかし、同時に、このことは、天皇陛下として、なさるべきことを心から大切にお考えになっていらっしゃる陛下のお気持ちに沿って、進めるべきであると考えます》
後段の「陛下のお気持ち」とは、天皇の地位にあって公務の責任を果たそうとする今上陛下の強い意志をさしているのは明らかであろう。皇太子として両陛下の公務を積極的に助け取り組むことの大切さを述べながらも、天皇自身が現行憲法下で即位されたはじめての天皇として、「象徴」という地位の役割に深い意味を自覚され、その責務を担っておられることを最大限に受け止めているからである。