7月31日に、膵臓がんのため61才で亡くなった元横綱・千代の富士の九重親方。昨年6月に膵臓がんが発覚し、同月下旬に緊急手術を受けた。同年9月に膵臓がんを公表したが、がんは外科手術では病巣を取り除ききれないほどに全身に転移。特殊は放射線治療を受けていた。
がん発覚から1年余り。昨年は手術入院のために休場した名古屋場所(7月10日初日)に今年は姿を見せた。
「場所前に名古屋入りした頃にはもう固形物の食事はできませんでした。フルーツジュースを喉に流し込むのが精一杯。体重は現役時代から初めて100kgを割り、その姿には関係者が衝撃を受けていました」(部屋関係者)
常人であれば、とっくに限界を超えている体調だ。場所初日の前日、九重親方は朝稽古で土俵際に腕組みをして座り、弟子たちの稽古の様子に鋭い視線を送っていた。
「このハーチャン野郎、なにやってんだ! もっと頭から当たれよ」
“ハーチャン野郎”とは、九重親方がよく使う口癖。一人前になっていない“半端者”の弟子をいつもこう呼んだ。
3時間に及ぶ朝稽古が終わる直前の午前10時過ぎ、おもむろに立ち上がった九重親方は竹刀を握って関取の千代の国(26才)に近づき、「このへっぴり腰が…」と言いながら竹刀でまわしを突き始めた。その指導は10分以上続き、稽古場の空気は張りつめた。
「九重部屋は外国人力士や学士力士を取らず、高卒や中卒の力士をイチから厳しく育てることで知られます。千代の国は幕内に上がったものの、右肩の脱臼などの怪我で三段目まで転落し、再び幕内に返り咲いた苦労人。肩の脱臼癖に苦しんだ九重親方が自身と重ね合わせて、とくに目をかけている関取です。場所直前の稽古は軽く流すのが常識。ですが、この日の親方は、何かに焦っているかのような激しい指導ぶりでした」(相撲記者)
稽古中、横に置いた湯飲みを何度も口に運び、30分に1回、錠剤をボトルから出してのみ込む。Tシャツと短パン姿にもかかわらず、お腹と背中に大きな使い捨てカイロが貼られていた。
「名古屋場所には監察委員として出勤していました。場所4日目(7月13日)のことです。ゆっくりした足どりで委員の控室に来ると、椅子にどっかりと座り込み、“キツイね、しんどい”と漏らし、目を閉じていました。親方が弱音を吐いたのは、後にも先にも、この一言だけだったのではないでしょうか」(相撲関係者)
その日、東京に戻り緊急入院した。
※女性セブン2016年8月18・25日号