東京五輪で銅、メキシコ五輪で銀を獲得し、男子バレー界の礎を築いた池田尚弘(現姓・中野/76歳)は、現在、妻の家業である蒲鉾店を継いでいる。
「東京では『東洋の魔女』と呼ばれた女子が金。祝勝会を主催したバレー協会は銅の男子を呼び忘れていた。今に見ておれ、と心に誓いましたね」
メキシコに向けてコーチから昇格した松平康隆監督は、選手に対戦国の歴史や文化を調べさせ、発表させた。
「非常に役立ちましたね。たとえば、ルーマニアはラテン系だから、最初にリードすれば諦めやすい……など頭に入れて冷静にプレーするようになった」
だが、主将だったメキシコでは、情が足かせとなった。五輪2か月前、チェコでの練習試合中にワルシャワ条約機構軍が侵攻するというニュースが飛び込んだ。試合が終わると、自国の危機なのに、チェコの選手たちはバスで日本チームをガードしながら、国境まで送ってくれた。
「メキシコで会おうといって別れてね。友情が芽生えた。本当は五輪で対戦したくなくて、複雑な気持ちでしたよ」
本大会では2セット連取も、チェコを応援する会場の雰囲気にも飲まれ、逆転負け。この敗戦がリーグ戦で尾を引いて金は逃すも、銀を獲得した。
(敬称略)
●撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年8月12日号