史上類を見ない凄惨な事件は、7月26日未明に起こった。神奈川県相模原市緑区にある知的障害者らが入る施設「県立津久井やまゆり園」に元職員の植松聖容疑者(26才)が乱入。入所者を次々に刺し、19人を死亡させ、職員2人を含む26人に重軽傷を負わせた。植松容疑者は、少なくとも2本のハンマーと5本の刃物を持って犯行におよび、寝ていて反応がなかった重複障害者を中心に切りつけた──。
厚生労働省の発表によると、日本にいる知的障害者は74万1000人。そのうちの16.1%が施設で暮らし、全国には小規模な施設も合わせると5951施設がある。その74万余の知的障害者とその家族が、今回の事件で「3重のショック」を受けているというのだ。
1つめのショックは、植松容疑者が同施設の職員だったという衝撃だ。日本障害者協議会の代表で精神保健福祉士の藤井克徳さんは次のように話す。藤井さん自身も視覚障害を持っている。
「抵抗できない障害者を中心に、50分足らずで45人を切りつけて、血の海になりました。その壮絶な事件の容疑者が自分たちを助けてくれるはずの施設の職員だったことは、障害者本人や家族に大きな衝撃を与えています」
また植松容疑者自身が今年2月、「重度の障害者を殺す」と周囲に話していたことから警察に通報され精神病院に措置入院。妄想性障害との診断を受けていた。これが2つめのショックだ。
「世の中の自分たちに対する差別感情が助長されるのではないかという不安があります。1964年に統合失調症患者がアメリカ大使を刺した『ライシャワー事件』がきっかけで、精神障害者を強制入院させる法律が強化されたように、今回もまた『社会防衛』の名の下で障害者を締めつけるようになるのではないかと心配なのです」(藤井さん)
そして3つめが、植松容疑者が2月に、衆議院議長宛てに書いた「重複障害者が安楽死できる世界」を訴えた手紙だ。
「報道では、あの手紙が全文掲げられたり、繰り返し読み上げられたりしているんです。“生きていても仕方ないんじゃないか”“安楽死させたほうがいいんじゃないか”という言葉が波のように押し寄せてきて、まるで周囲の人がみんな自分に対してそう思っているような気がしてきてしまうという声が上がっています。一方で、多くはないと思いますが、容疑者の思いに感化されたり、触発される人も出て来るのではないかとも思ってしまいます」(藤井さん)
※女性セブン2016年8月18・25日号