神奈川県相模原市緑区にある障害者施設「県立津久井やまゆり園」で発生した凄惨な殺傷事件。7月26日、元職員の植松聖容疑者(26才)が同施設に乱入、入所者を次々に刺し、19人を死亡させ、職員2人を含む26人に重軽傷を負わせた。
「すごく悲しい。まるで自分の息子が殺されたような苦しみと衝撃がありました」
そう語るのは、早稲田大学文化構想学部で社会福祉学・障害学が専門の岡部耕典教授だ。重度の知的障害がある息子の父として、今回の事件に対するマスコミや世間の反応に違和感を覚えると語る。
神奈川県警の報道文には「A子さん19才、B子さん40才…」とアルファベットが並んだ。これまで殺人などの事件では被害者名を公表するのが通例だが、県警は「被害者の氏名は公表しない。被害者の家族がさまざまな事情のため公表しないでほしいと思っている」と説明した。
「死んだ人は単なる記号にすぎないというか、重度の知的障害という字面だけが表立っていて、本当に悲しいという気持ちがまったく働いていないんじゃないかという気持ちがしています。例えば、小さな子供が惨殺された事件があったとして、自分の家にも同じ年の子供がいると思いを重ねますよね。今回の事件では、ほとんどのかたがそういう思いになっていなくて、ぼくたちのような障害を持った人の親や、障害を持った当事者だけが、衝撃を受けているという印象です。
献花台のニュースで、“たくさんの人が訪れて”っていうんですが、献花に来ている人のインタビューも、障害を持った人やその家族とかばかりで、そうでない人は来ていないんだろうなと感じました」(岡部さん)
名前がない匿名による報道についても、岡部さんは、世間のどこか他人事、という空気をひしひしと感じるという。
「名前を出す以前の問題なんですよ。他の殺人事件だったら、どこから探してきたのかわからない写真まで出して、その人の人生を伝えるのに、障害者になると、腫れ物に触れるみたいな感じで、その人が本当に生きていたのかさえわからなくなる。こういう人がいて、こういう生活をして、それで亡くなったということを本当に知りたいという思いがないのかもしれません。それはやはり、重度の知的障害が身近でかけがえのない存在ではないからだと思うんです」(岡部さん)
そんなことはない、というのは簡単だろう。しかし、実際にそのように感じている当事者の人たちがいる。そのことにまず耳を傾けなければならないはずだ。
※女性セブン2016年8月18・25日号