綱紀粛正が叫ばれる中国で蔓延しているのが麻薬汚染だ。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
* * *
国民の所得が増える一方で中国で問題になっているのは、麻薬使用者の増加だ。2月18日には多くの読者を獲得していることで知られるタブロイド紙「新京報」が、中国での薬物依存症患者の数を〈234万5000人に達した〉と報じて話題となったばかりだ。
数字の根拠は今年2月18日付で中国国家禁毒委員会弁公室が同発表した「2015年中国毒品形勢報告」だ。
それにしても中国における麻薬汚染の実態は、刑法の厳しい現実に反してどうしてこれほど深刻化を続けているのか。
その答えの一つが警察との癒着である。地方の警察が組織的に密輸をサポートする例は以前から多くの報告があるが、加えて多いのが現場での見逃しである。
今年6月23日付『信息時報』が報じた記事は、その問題を正面から扱ったもので、広東省での取り締まりで自ら賄賂を要求して犯罪を見逃した警官について1年1カ月の懲役刑が言い渡された裁判についてのものであった。
犯罪の中身は極めて単純で、〈国境を護る武装警察部隊の警官が約2000万元(約3億400万円)の麻薬密輸資金を押収したにもかかわらず、その中から500万元(約7600万円)を賄賂として強要。応じた犯人をあっさり逃亡させた〉というものである。
犯人を見逃したのは広東省辺防総隊深セン経済特別区検査ステーションに所属する警官で、のちに犯人グループが別の場所で逮捕されたことから問題が発覚したという。
警官は賄賂次第といった話は中国の巷には溢れているが、実際に裁判によってこんな実態が明らかにされると、問題の深刻さをあらためて実感させられるのだ。